ドイツの新刊から

Spiegel誌のベストセラーリストから、気になる新刊を:

 

◆"Das Feld"  ローベルト・ゼーラーター

das Feldは通常は「野原、畑」ですが、ここでは「墓地」のこと?死者たちが自分の人生を振り返って物語る、という内容みたいです。

Das Feld

Das Feld

 

 『キオスク』が日本でも翻訳されたゼーターラーの新作。『キオスク』は映画にもなったし、これは翻訳期待してます。

キオスク (はじめて出逢う世界のおはなし オーストリア編)

キオスク (はじめて出逢う世界のおはなし オーストリア編)

 

 

 

 ◆"Neujahr"  ユーリ・ツェー 

若くして人生に行き詰まりを覚える青年の目を通して、現代の家族のあり方を問うサスペンス小説。

Neujahr

Neujahr

 

 日本で紹介された『シルフ警視…』が、あんまり私の好みじゃなかったツェー ですが、ドイツではディストピアSF系の作品をバンバン書いて売れっ子作家の仲間入りをしてます。今回はSFとかではないみたい。

シルフ警視と宇宙の謎 (ハヤカワepiブック・プラネット)

シルフ警視と宇宙の謎 (ハヤカワepiブック・プラネット)

 

 

 

 ◆"Die Hungrigen und die Satten" (ティムール・ヴェルメシュ)

 『帰ってきたヒトラー』原作者の新作。今回のテーマは移民問題で、またまた皮肉たっぷりに現代社会を描いている模様。

Die Hungrigen und die Satten

Die Hungrigen und die Satten

 

しかし この↓デザイン、インパクトあるなあ。

帰ってきたヒトラー 上下合本版 (河出文庫)

帰ってきたヒトラー 上下合本版 (河出文庫)

 

 

最近読んだ本から

仕事に忙殺、もさることながら、ようやく新しいPCに移行してから Windows10の使い方がよくわからーん!とおたおたしておりました。慣れれば快適快適。


はてなダイアリーもなくなるそうだし、ちょっとまたいろいろ仕切り直しが必要ですな…とりあえず:


文字渦

文字渦

『文字渦』:円城塔、頭が良すぎてしびれる…。ボルヘスが今のデジタル時代に日本で生まれたらこういう話を書くのかなあ。一作ずつ精査したくなる短編群。



鏡の背面

鏡の背面

『鏡の背面』:読んでいてなぜか宮部みゆき火車」を連想しました。自分も他人も騙さなくては生き延びられない、現代社会における女性の生きづらさ、みたいなものを背景にしているからでしょうか。「火車」のカード破産に対して、こちらでは女性保護シェルターがテーマになっているところに時代の移り変わりを感じます。



影の歌姫〈上〉 (セブン・シスターズ) (創元推理文庫)

影の歌姫〈上〉 (セブン・シスターズ) (創元推理文庫)

影の歌姫〈下〉 (セブン・シスターズ) (創元推理文庫)

影の歌姫〈下〉 (セブン・シスターズ) (創元推理文庫)

『影の歌姫』:「セブン・シスターズ」第2弾。美女美男が異国の地で繰り広げるロマンティック・ストーリー、と言ってしまえばそれまでなんだけど、スケールが大きくてやっぱりワクワクする。



蜜蜂

蜜蜂

『蜜蜂』:欧州、特にドイツでのベストセラー小説ということで以前から注目してました。勝手に「女の細腕繫盛記」的な時代小説だと思っていたら、実は近未来SF(しかもディストピアもの)でちょっとびっくり。現代における「家族」の崩壊に、昨今話題の蜂群崩壊症候群を重ね合わせたということか。SFとしてはもう一ひねりほしいところだけど。



10月からは仕事に対するスタンスもちょっと変えたいなあ、と、とりあえず一つ手は打ってみました。さてどうなることやら。

最近読んだ本から

また忙しくなりそうなので、その前にざっくりまとめ:


鯨 (韓国文学のオクリモノ)

鯨 (韓国文学のオクリモノ)

「鯨」:「白鯨」みたいな話かと思ったら違いましたが、筋書きの破天荒さ、荒々しさは正に鯨級。池上永一梁石日を掛け合わせたみたいな激しさがある。鯨そのものはそんなに出てこなくて、むしろ心優しき象さんの方が印象に残るのがなんだか不思議。
この晶文社の「韓国文学のオクリモノ」シリーズは外れなしの良企画でした。韓国の現代文学にはまだまだお宝がありそう!


贋作

贋作

「贋作」:3つの時代を行き来しながら進行する絵画ミステリ。面白かったけどあえて言わせてもらえるなら、サラ、エリーに加えるもう一人の主要人物は、マーティじゃなくて妻のレイチェルにすべきじゃなかったのかな。その方がこの筋書きの裏側にある「女性というだけで受ける理不尽な仕打ち」をもっと立体的に見せることができたと思うんだけど。
一見何の不自由のない有閑マダムのようで陰で不妊治療と上流社会との交流に屈託を抱えるレイチェルが、お坊ちゃまの夫マーティをそそのかしてエリーに罠を仕掛けるもいつしか女性同士は共感を呼びあうように…みたいな展開の方が私的にはスッキリくるかなあ。


ディス・イズ・ザ・デイ

ディス・イズ・ザ・デイ

「ディス・イズ・ザ・デイ」:津村記久子の作品は文章も話の運びも上手くてスルスルと読んでしまう。今回も国内サッカー2部リーグのサポーターたち、というメジャーとマイナーの狭間に立つ人たちの微妙な心情を余すところなく描いて読み応え充分。次々と繰り出され、なるほどこんな切り口もあるか!と納得させられるサポーターの心境の複雑さに胸がつまる。そうそう一口にファンといってもいろんな立場があっていろんな愛で方があるんだよね…と最近ちょっとファン心理をこじらせている私には妙に切実な連作集でした。面白かった!



Poldark [DVD]

Poldark [DVD]

「風の勇士ポルダーク」:GYAOの期間限定配信でシーズン2まで鑑賞。どうしてNHKは「ダウントン・アビー」の後にこれを放映しなかったのかしらん。そしたら以前のヨン様ブーム以上のエイダン様ブームが巻き起こったかもしれないのに!
と言いたくなるほどエイダン・ターナーがかっこいい。話はバリバリにメロドラマだけど分かりやすいし、美男美女のコスプレがとってもよろしい。しかしロスはデメルザをもっと大事にしなさい!そんな仕打ちしたら絶対バチが当たるよ!(怒)
新井潤美の読者としては、英国の階級意識がとっても分かりやすく(ステレオタイプすぎるくらい)描かれていて興味深いです。いくら頑張っても成り上がり者扱いのワーレガン、いやな奴だけど意地悪したい気持ちはわかるよ…。


新井潤美を読んだ後では何を観ても、もう「階級」のことしか考えられない。


これ邦題がスゴイんですが(汗)、ここでエイダン・ターナーが演じてるラファエル前派の立役者・ロセッティがとっても良かったので日本でちゃんとDVD化してほしいなあ。そのためにもエイダン様ブームが必要なんだけどなあ。



「そろそろ<左派>は経済を語ろう」:階級からの連想で。最近の欧州のポピュリズム的傾向を経済学的視点から解き明かしていく内容は、私にはとても勉強になりました。もともと「上/下」の階級闘争だった政党の関係が「右/左」の思想論争にねじれていった結果さまざまな矛盾が生じている、みたいな説明が面白かったので、関連図書を読み込んで色々考えてみたい一冊。

「The Comet Seekers」(Helen Sedgwick)

読むきっかけは多分The Irish Timesの書評。とーっても私好みのお話でした:

The Comet Seekers: A Novel

The Comet Seekers: A Novel

南極調査隊の一員として出会い、お互いに惹かれ合うものを感じる2人、Róisín(ローシーンと読むのかな?)とFrançois。物語はそこから2人の過去に遡っていく。


アイルランドの田舎で2つ下の従兄弟 Liamと育ってきたRóisín。頭脳明晰で彗星の研究者を目指すRóisínにとって故郷はあまりに狭く魅力に乏しい。一方、昔から農場を営んできた家系である Liamに故郷を離れるという選択肢は無い。成人し愛し合うようになる2人だが、生き方の違いが2人の仲を引き裂いていく。


フランスはバイユーに住むFrançoisの一族は、彗星が地球に近づくと館に住みつく祖先たちの霊と会話できる、という不思議な力を備えていた。Françoisはまだその力に目覚めていないが、母親のSeverineは若い時から祖先たちと深く関わりあうあまり周囲からは狂人扱いされ引きこもりがち。幽霊話には懐疑的なFrançoisも、母親を気遣って傍らを離れないようにしていたのだが…。


リケジョの生きづらさがリアルなRóisínの物語と、ハリポタばりのファンタジー要素満載のFrançoisの物語。彗星という共通点を持って交互に語られる2つの物語が、重なりそうでなかなか重ならないのがまたニクイ。はかないようで実は周囲に強い影響力を与えている彗星という存在が、作品全体のモチーフとして効果をあげている。


もともと学者系女子の話にヨワい私はRóisínの生き方に惹かれちゃいました。学術的目標に向かっては迷いなく進めても、そこに人間関係のしがらみが加わると途端に不器用になってしまう。うーん切ない。
あと今どきの女子としては、Françoisが「南極料理人」というのもポイントが高いですね!(爆)


新潮クレストあたりで翻訳が出て、ついでに映画化とかしてくれると嬉しいなあ…と夢見たくなる作品でした。私にしては柄にもなくロマンティック。でもいいですよ。

最近読んだ本から

地球にちりばめられて

地球にちりばめられて

「地球にちりばめられて」:昔はあまり好きではなかったのに、今では新刊が待ち遠しくてならない多和田葉子。今作も多言語にまたがる言葉遊びを駆使しつつ、移民や原発など現代の問題点を徐々に浮かび上がらせる内容で、分量はそれほどでもないのに読み応え充分でした。今のところ上半期の国内作品ベスト。



太平洋の精神史:ガリヴァーから『パシフィック・リム』へ

太平洋の精神史:ガリヴァーから『パシフィック・リム』へ

混血列島論 ポスト民俗学の試み

混血列島論 ポスト民俗学の試み

「太平洋の精神史」/「マニエリスム談義」/「混血列島論」:読めば読むほど関連図書まで手を伸ばしたくなって沼にハマるタイプの本たち。みんな博覧強記すぎて困るー。



文芸翻訳教室

文芸翻訳教室

英語のこころ (インターナショナル新書)

英語のこころ (インターナショナル新書)

「文芸翻訳教室」/「理系のための『実践英語力』習得法」/「英語のこころ」:英語ネイティブでない人間は、こういう本をひたすら読みこんで地道に一つずつ穴を埋めていくしかないんですよね…語学に近道はない、と思ってます(え、違う?)。

最近読んだ本(と観たドラマ)から

時間もないのに歴史ものというか大河ドラマにハマっております。きっかけはCSで放送した「イサベル 波乱のスペイン女王」。15世紀にスペイン統一の礎を築いたイサベル1世の波乱万丈の生涯を描いたもので、これがみんな陰謀を張り巡らせるから話はなかなか進まないんだけど、めっぽう面白かったのです。女子としては「ベルばら」でいえばアンドレ・ポジション(愛しい女王を陰で支える役)のゴンサロ(鈴木亮平顔)が特にお気に入り。
今は続編の「フアナ」を経て「カルロス」観賞中。いやあ勉強になるなあ。とにかく人間関係(というか婚姻関係)が複雑なので、ドラマでジックリ観ないと覚えられません。


狂女王フアナ―スペイン王家の伝説を訪ねて

狂女王フアナ―スペイン王家の伝説を訪ねて

というわけで、復習で↑あたりを読んでみたり。語り口があまり好みではないけど、ドラマファンにはちょうど良いとっつきやすさかも。


しかしこのイサベルの末っ子がイングランドに嫁いでキャサリン・オブ・アラゴンとして苦労するわけね…と思うと胸が痛む。ちょうどGYAOで期間限定配信をやっていた「チューダーズ」を再鑑賞してしまいました:

チューダーズ <ヘンリー8世 背徳の王冠> DVD-BOX1  チューダーズ <ヘンリー8世 背徳の王冠> DVD-BOX?  チューダーズ <ヘンリー8世 背徳の王冠> DVD-BOX3  チューダーズ <ヘンリー8世 背徳の王冠> DVD-BOX ?


『ウルフ・ホール』『罪人を召し出せ』を読んだ影響で、再鑑賞の今回は特にウルジー、トマス・モア、クロムウェルの関係性に注目して楽しみました。次に観るときはスペイン(と神聖ローマ帝国)との関係が気になるんだろうなあ(何度でも観たい)。

ウルフ・ホール (上)  ウルフ・ホール (下)  罪人を召し出せ



調子に乗って↓なんてパラパラ見ていたら久しぶりにマンガも読みたくなって:


読み始めたのが『天上の虹』。里中満智子はそれほど好きな作家ではなかったのだけど、これを読むとベテランとしての構成力の上手さに唸らさせっぱなし。(これも人間関係(婚姻関係)が複雑なんですが、それぞれのキャラがしっかり描かれているのですんなり頭に入ってくる)先陣に立って少女マンガの世界を開拓してきた彼女ならではの主張も一貫していて、いやよく完結してくれました。続編的意味合いの『女帝の手記』もこれから読みます。


で、今はAmazonプライムで解禁になったHBOのドラマ「ローマ」を今頃いそいそと観ております。ヴォレヌスがんばれー。
ROME [ローマ] 〈前編〉 [DVD]  ROME [ローマ] 〈後編〉 [DVD]

「Inch Levels」(Neil Hegarty)

昨年 Irish Times紙のBook Clubにも選ばれた気鋭の新人、ということで読んでみました:


Inch Levels (English Edition)

Inch Levels (English Edition)

Inch Levels

Inch Levels

舞台はデリー州(北アイルランド)とドネガル州(アイルランド)の州境(国境ともいえる)、と言うだけで複雑な歴史が推測できそうな地域。さらにフィヨルドという独特の地形を活かして第二次大戦中は軍港としても栄えたとのこと。そのあたりの歴史は物語を語る際に随所に差し挟まれる。


物語は少女の突然の失踪、そして数日後の遺体の発見から始まる。明らかに殺人、しかし手がかりは何もなく、現場周辺の住民の間に悲しみと空しさ、そして怒りが広がっていく。


…ここから事件解明に向けて進んでいくのかと思いきや、話は突然数年後、ガンで死期間近の若者とその家族を中心に回っていく。愛情表現が下手でしばしば話し相手を傷つけがちな母親を筆頭に、存在感の薄い父親、優しいが情緒不安定な姉といけ好かないその夫、そして血縁でもないのに何故か常に母親と一緒にいる女性、といった面々のそれぞれの過去が、時代を行きつ戻りつしながら描かれる。


いやそれはそれで充分面白いんだけど、でも殺人事件はどうなったの?この一家と殺された少女の間に直接的な関係は何もない。同じ地域に住んでいて、事件に関する一連の報道をみな気にかけていたというくらいで…。
、と思ったら、終盤に思わぬ接点が出てきて一応ミステリとしてはオチがつく。イヤミスですけどね。


登場人物の中で一番印象的なのはやっぱり母親。最近読んだコルム・トビーン『ブラックウォーター灯台船』の母親にも通じる、愛情表現の不器用さ。アイルランドの母親って『アンジェラの灰』的に愛情深くおおらかなイメージがあるけれど、その陰には本来家庭向きでない女性(私だ)の人一倍の苦労もあるんだろうなあ。


ブラックウォーター灯台船

ブラックウォーター灯台船

アンジェラの灰 (上) (新潮文庫)

アンジェラの灰 (上) (新潮文庫)

アンジェラの灰 (下) (新潮文庫)

アンジェラの灰 (下) (新潮文庫)


しかしアイルランド作家の青田買いはやはり収穫がある。日本にも紹介されてなくはないんだけど、もっとまとまった形で意識的にキャンペーンをやってほしいものです。(その点、韓国の現代文学は今とても良い形で紹介されていてうらやましい)


軋む心 (エクス・リブリス)

軋む心 (エクス・リブリス)

この人は順調に新作も続々発表していて、若手の中でも一歩抜け出ている感じ。


ヤングスキンズ

ヤングスキンズ

なんでこんな表紙なんだろ?中身と違和感があって残念。


きみがぼくを見つける

きみがぼくを見つける

これは邦題に違和感。良い話なのになあ。