「Kebab Connection」

製作: 2004年、ドイツ
監督: Anno Saul
出演: Denis Moschitto, Nora Tschirner 他

公式サイト:http://www.kebabconnection.de
DVD情報(Amazon.de):http://www.amazon.de/exec/obidos/ASIN/B000ARNXPW/




ケバブmeets カンフー!? in ドイツ」みたいに一見ハチャメチャ、でもとってもチャーミングな映画だった。


ハンブルクに住むトルコ系のイボはカンフー&映画大好きの今時の若者。叔父さんの経営しているケバブ(ケバップ)屋のために製作したCMスポット(映画館で本編上映前にサクッと流れるやつ)は大好評。いつかはドイツ初のカンフー映画の監督を!との野心に燃えている。しかしそこに恋人のティツィ(こちらはドイツ人)から妊娠を告白されてオロオロ…と話自体はありがちな妊娠小説(© 斎藤美奈子)ならぬ「妊娠映画」の一種だが、カンフー・アクションばりにテンポの良い演出と、いかにも「楽しんでやってまーす」的な役者陣のノリが心地よくて、最後までニコニコしながら観ていた。特に主演二人のハツラツとした表情がイイ!


とはいえ単なるお気楽映画で済ませられないのは、全編に「移民」というキーワードが散りばめられているから。この映画で映し出されるハンブルクの街並みは、雑然と、でもとても活気に満ちた雰囲気で、いかにも非ドイツ人で形成されたコミュニティといった感じ。
叔父さんのケバブ屋の向いにはギリシャ系居酒屋があって、そこのオーナーと叔父さんはしょっちゅう張り合っているが、時に妙な連帯感を醸し出しているのも面白い。私の住む街もトルコ系とギリシャ系が多くて、こういった敵対意識&同胞意識はなんとなく想像できる。


お父さんが「ドイツ人の女を孕ませるなんて!」と激怒してイボを家から追い出す場面にはちょっとドキッとした。もともと善良なお父さんは、息子を追い出した後も身重のティツィが心配で彼女を見守っているうちに情が移り、しまいにはイボそっちのけで家族ぐるみでティツィと親しくなっちゃうのだが、例えばこれが男女が逆で、トルコ娘がドイツ男とつきあって妊娠したのだったら?最近ドイツでも「名誉の殺人」なる名目でトルコ系女性が身内に殺されるという事件が増えているので、映画のようにはいかないであろう現実を省みてちょっと悲しくなった。


おりしもフランスでの移民による暴動が盛んに報道されていて、映画の中のささやかな、でも大切な幸せが訪れることは現実にはとても厳しいのだろうと思うとつい溜息が出てしまう。でもだからこそ映画の中でのハッピーエンディングは一筋の光のように思えるのかもしれない。


脚本に参加したファティ・アキン Fatih Akin氏はやはりハンブルクに住むトルコ系移民を取り上げた愛より強く(原題:Gegen die Wand)」で2004年ベルリン映画祭金熊賞を受賞した監督。
愛より強く」(しかしなんでこんな変な邦題?直訳は「壁に向かって」)はヒロインの行動があまりに過激すぎて私にはついていけなかったが、先にも挙げた「名誉の殺人」などの現状を思うともうちょっと理解してあげるべきかも、と今になって考えてみたりする。


「Kebab...」の映画の話に戻ると、「ポチョムキン」から「マトリックス」まで全編に散りばめられた映画のパロディも楽しかった。ブルース・リーの亡霊が登場する場面もあるのだが、これが全然顔が似てなくて笑ってしまった。東洋人の顔はやっぱり皆同じに見えるのか?
しかし男の子って本当にブルース・リーが好きなんだなあ。




【参考】

ヨーロッパとイスラーム―共生は可能か (岩波新書)

ヨーロッパとイスラーム―共生は可能か (岩波新書)

ちょうどドイツ人の知人(かなりのインテリ)からトルコ人への嫌悪感を露わにした発言を聞いた時だったこともあって、これを読んだときは正直かなり凹みました。
ドイツ、フランス、オランダそれぞれの国の移民への対応の違い(とその歴史的背景)が分かりやすく書かれています。ぜひ御一読を。




●「Webマガジン レアリゼ:ドイツ映画三昧 Vol.4 『壁に向かって』Gegen die Wand」
http://www.realiser.org/2004/041010.htm

*邦題「愛より強く」として今年6月のドイツ映画祭で先行上映された「Gegen die Wand」の分析。日本一般上映は来年?



●「同:文化・東西南北 Vol.2「ベルリン中近東事情 ケバップ対シュヴァルマ」」
http://www.realiser.org/2002/020802.htm

ハンブルクではありませんが…ちなみに私、ケバブ大好きです。