最近読んだ本から

 最近特に報道が増えているように思われるヘイトスピーチヘイトクライムに心を痛めつつ、他国の状況も知りたいと考えて:

ドイツの新右翼

ドイツの新右翼

 

『ドイツの新右翼』: かなり専門的で全て理解したとはとても言えないけれど、世間を賑わせている「新右翼」たちがポッと出の集団ではなく、それなりの歴史的経緯を踏まえて出現したものであることが丁寧に解説されていて勉強になりました。特に保守派の唱える「アーベントラント(Abendland)」という概念が気になって、以下の書籍も読了:

 『黒いヨーロッパ』:著者に関しては以前新書『アデナウアー』を読んで、なるほど「保守派」というのはこういう考え方をするのか、と非常に納得感を覚えた経緯があったのでした。そうやって新書レベルですが予備知識を得ていたことが今回の読書の手助けになったことは間違いないです。

アデナウアー - 現代ドイツを創った政治家 (中公新書)

アデナウアー - 現代ドイツを創った政治家 (中公新書)

 

「アーベントラント」とは陽が沈む側の国、要はorient(東洋)に対するoccident なわけですが、それが政治思想的な意味合いを(勝手に)つけ加えられて、ちょっと胡散臭い 使われ方をされるように。第一次大戦後にベストセラーとなったシュペングラーの『西洋の没落』の「西洋」にあたる部分が、原題では Abentland だったことで、その傾向に拍車がかかった模様:

西洋の没落 I (中公クラシックス)

西洋の没落 I (中公クラシックス)

 
西洋の没落 II (中公クラシックス)

西洋の没落 II (中公クラシックス)

 

 ◆参考:

1000ya.isis.ne.jp

(以前は「古典」「名著」の類だと思っていたのだけれど、今回いろいろ調べてみると、むしろ「問題作」「奇書」と言ったほうが合っているのかも...と思ってしまいました。まあとにかくインパクトの強い本ということですね。便乗本も多いし)

 

 話を『黒いヨーロッパ』に戻すと、著者は序章で「アーベントラント」の概念をざっくり以下のようにまとめてくれています:

1.反近代;宗教改革以前のキリスト教的共同体としてのヨーロッパへの郷愁

2.反個人主義;近代の産物である「理性的で主体性を持つ個人」の否定

3.反(大衆) 民主主義;大衆の政治参加への懐疑

4.反近代国民国家;理想化された神聖ローマ帝国が範とされ、連邦主義が理想

5.反「東」;イスラムであれ、ロシア(ソ連、または共産主義、あるいはロシア正教)であれ、「東」への対抗

 

この傾向が過激になると昨今の新右翼へつながるわけですが、第二次大戦後のEU成立も、マイルドな形であれ上記のような発想が作用していた...と考えて歴史を振り返ってみると、結構思い当たるところがあって唸ってしまいます。前述の『アデナウアー』でも、彼が東側との融和よりも西側での団結を強く求めた結果により、EUの成立と「壁」の出現に影響を与えた経緯が描かれていたわけですが、それを支えていたのは上記の「西洋」主義だったのかも。もう一度『アデナウアー』を読み返してみようっと。

 

今までと違う視点から歴史をとらえるきっかけとなった、非常に刺激的な読書でした。今後も関連本を探してみようと思います。

教養としての政治学入門 (ちくま新書)

教養としての政治学入門 (ちくま新書)

 

 上述の板橋拓己教授参加の最新作なので、まずはこれも読んでみようと思ってます。(しかし最近はみんな教養教養ってやかましいね)