「海賊党の思想」(浜本隆志)


図書館にて借出し:


海賊党の思想: フリーダウンロードと液体民主主義

海賊党の思想: フリーダウンロードと液体民主主義


海賊党」とは、主にネット利用に関する著作権改革を訴えている政党。発祥はスウェーデンですが近年ドイツでの台頭が著しく(とはいえ現在は失速気味)、日本でもよく名前は聞かれます。政治的な活動内容はともかく、フリーダウンロードの問題やネット政治の可能性など、もはやネットとは縁が切れない私たちの日常でいかに新しいモラルを構築するかを考える上でも興味深い問題提起をしています。


著者の作品は↓などで親しんでいたので、こんな超現代的なテーマでも書かれるんだ!と読む前はややビックリ:


紋章が語るヨーロッパ史 (白水uブックス)

紋章が語るヨーロッパ史 (白水uブックス)

「窓」の思想史: 日本とヨーロッパの建築表象論 (筑摩選書)

「窓」の思想史: 日本とヨーロッパの建築表象論 (筑摩選書)


読み進めていって、まずその歴史的考察の奥深さにしびれました。例えば「海賊」という理念を説明するにあたり、もちろんバイキングの話から入りますが、ナチ時代の自然発生的な青年抵抗組織「エーデルワイス海賊団」を取り上げて詳しく解説する、という切り口は著者ならではと感服しました。


エーデルワイス海賊団―ナチスと闘った青少年労働者

エーデルワイス海賊団―ナチスと闘った青少年労働者

(個人的にエーデルワイス海賊団は関連映画とか観て思い入れがあったので余計嬉しかったり)


新しいメディアの成熟と政治との関係についても、グーテンベルグ活版印刷からベンヤミンの「複製技術時代の芸術作品」、ボードリヤールの「シミュラークル」まで関連する主だった思想をざっくり紹介しているので、前知識の全くない人にも西欧思想の流れが分かるように配慮されています。


更にネット政治の可能性については↓のような最新の考察にも目配りをしています:

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

ウェブで政治を動かす! (朝日新書)

ウェブで政治を動かす! (朝日新書)


著者自身は海賊党に特別肩入れしているわけではなく、ワンイシュー(著作権問題)の解決のための政治団体から総合的政党へ拡大していく際に生じる様々な歪みについては結構厳しく批評しているので、これを読んで海賊党に入ろう!と洗脳されるということは無いです。むしろ海賊党には全く関心が無くても、これからのメディアと政治の可能性について考える際に、具体的なデータも豊富で良いテキストではないかと思います。ヘンに構えずに多くの人に読んでもらいたい内容です。