「ソウル−ベルリン玉突き書簡」(徐京植、多和田葉子)


図書館にて借出し:



往復書簡や対談といった形式では両者の思考/嗜好が似すぎていてもつまらないし、かといってあまりに
違いすぎるとチグハグで話が噛み合わなくて組んだ意味が無い、なんてことになります。


今回は両者ともエグザイル体質(徐氏は京都出身だが当時韓国滞在中、多和田氏は現在ベルリン在住)かつ
言葉の在り方に非常に敏感な質なので噛み合いすぎちゃうかな、とも思ったけれど、徐氏があとがきで述べている
ように、徐氏が深く掘り下げるタイプなのに対して多和田氏は広げていくタイプなので上手いこと話が回って
くれました。


先日の濃厚ロシア対談のような強烈さは無いけれど、普段さらっと流している事柄を立ち止まってふと考えてみる、
そんな契機になるような心地よい刺激に満ちているように思えました。



エクソフォニー-母語の外へ出る旅-

エクソフォニー-母語の外へ出る旅-

多和田氏の作品は小説というより言葉を使った現代アートという気がしてあまり得意じゃないんですが、
このエッセイは割と素直に読めました。ちょっとドイツ語を齧ったから一層面白く感じたのかも?




午前4時、東京で会いますか?―パリ・東京往復書簡

午前4時、東京で会いますか?―パリ・東京往復書簡


こちらの往復書簡は内容・文章ともにシャン・サの圧勝で、私はコラス氏の部分なんぞスッ飛ばして読んでました。
(ところで最近Amazonのデータは作者名が出ませんね。翻訳者名は出るのに…)


ここからは全くの余談。
先日ありちゅんさんのブログで「Kreislauf」の話題が出て、あーそういえば以前ドイツで入院したときに
隣のベッドの女性も言ってたなーなどと懐かしく思い出していたのですが(まあ彼女は入院してたくらいだから
本当に障害があったのでしょうが)、この本の中でも、多和田さんがやはりドイツ人の好きな言葉として
挙げていたのでした!:

直訳すれば「(血液)循環」というほどの意味で、すごく暑かったり疲れていたり貧血だったりして、ふらふらして
体調が悪くなった時に、クライスラオフに問題があるというのです。それで自分もまわりも納得するのですが、
医学的に見て、滞っているものが本当に血液なのかは怪しいものです。使っている本人達も血液の病気だと考えて
いるわけではなく、もっと感覚的にこの言葉を使っていて、わたしたちの産まれた東アジアで言えば、「気」の流れが
滞っているというのに近いかもしれませんね。アメリカに住むわたしのドイツ人の知人達は、よく「ああ、
クライスラオフの調子がおかしくなってきた。でもサーキュレイションがおかしくなったと言っても、英語人たちは
わかってくれない。どうしよう」などと冗談を言ってます。つまり、近代医学が分析すれば多分いくつもの複雑な
現象の組み合わさった状態でも、わたしたちの身体はそれを総合的に一つの状態と捉え、ふさわしい言葉を持っている
場合があるのです。(p.123-124「第七信 翻訳」)


やっぱあなどれない「Kreislauf」。要暗記単語です。