「The Gustav Sonata」(ローズ・トレメイン)

The Gustav Sonata

The Gustav Sonata


著者のことは先日出版された「道化と王」↓で初めて知ったのですが、本国ではベテラン作家で概して評判が良いので、新作を読んでみました:

道化と王 (ヨーロッパ歴史ノベル・セレクション)

道化と王 (ヨーロッパ歴史ノベル・セレクション)


小説の始まりは第二次大戦後まもなくのスイス。父親を早くに亡くし母親と二人暮らしの Gustavは、幼いながらも母の負担になるまいと常に気丈にふるまっている。後に彼は同じクラスに転入してきた Antonと仲良くなるが、母親はユダヤ人である Antonとその家族にどこかよそよそしい。どうもそれは父親の死とも関係があるようなのだが…。


第二次大戦中のユダヤ人迫害が主題なのかと思ってましたが、それは物語の要素の一つ(もちろん重要な要素ではありますが)で、メインは Gustav の人生と、それに伴う繊細な彼の心の動きを追うことなのだと思いました。特にしばしば作品で言及されるスイス人の "mastering oneself"、己を律する精神、克己心というのが Gustav には大きな意味を持っていて、そのため小さなうちから頼られて我慢ばっかりしていて、これじゃあ Gustav かわいそうだよ!みんなもっと彼を思いやってあげなよ!と読んでて同情してしまいました。


読みながら竹宮恵子「変奏曲」↓あたりを思い浮かべてました。Antonはピアノの才能はあるのですが精神的に脆く大勢の前で演奏をすると実力が全く発揮できない。密かに彼を慕う Gustav はそんな彼を懸命にサポートするのですが、当の Antonは自分のことしか見えていない。もーもどかしくてもどかしくて。


変奏曲 vol.1 (1)

変奏曲 vol.1 (1)


そんな風に、少し昔の(昭和24年組あたりが好んで描いた欧州舞台の)少女マンガっぽい展開でした。まあ私が最近萩尾望都を読み直しているからそう思うのかもしれませんが…