「Sweet Caress: The Many Lives of Amory Clay」(ウィリアム・ボイド)


Sweet Caress: The Many Lives of Amory Clay

Sweet Caress: The Many Lives of Amory Clay


波乱万丈の20世紀を生きた女性写真家の偽自伝的小説。文中の随所に、彼女が撮ったという名目で当時を彷彿とさせる写真が挿し挟まれていますが、彼女自身が架空の存在(特定のモデルがいるわけでもない)なので、本当はこれらの写真も著者があちこちから集めてきて作品の一部としたものということになります。とはいえ実際の写真が入ることで、物語に現実味が増すのは確か。


通して読むと、20世紀とは戦争の世紀だったのだなと実感します。主人公 Amoryの父は第一次大戦に出兵して心を病み、突発的に彼女と無理心中を図ろうとして失敗、施設に収容されます。この父親の行動は Amoryの心に後々まで深い傷を残していきます。


20世紀初めに女性が職業写真家として身を立てるのは簡単ではないですが、Amoryは上流社会の記念写真を撮ることだけでは物足らず、報道写真家として名を挙げようと危険な現場にも飛び出していきます。そこで一大スクープをものにして有名に…となれば朝ドラ的立志伝ですが、われらがAmoryちゃんは案外ツキがないというか世渡り下手というか、色々挑戦しては結構イタい目に会ってます。男運も良いような悪いような、でそれなりに苦労してるよなあ。


第二次大戦の終戦間際に出会ったイケメン兵士と結婚したら、実は彼は貴族様で…というハーレクインみたいな展開にはビックリしましたが、彼もまた戦争で傷つき酒に溺れて身上をつぶし…と奥様になってもやっぱり何かと苦労の多い Amory。それでもかつての同胞だった女性写真家たちがベトナム戦争に参加していると知り、写真家としての熱意が甦ってきて…。


副題にもある通り、決して写真家一筋!という人生ではありません。それが許される時代ではなかったし、彼女の決意もあちこち揺らぐし、その時その時に現われる男性によっても運命を左右される。でもそれが普通なんですよね。


著者は英国では007の続編を任されるくらいのベテランですが、日本では翻訳がちょろちょろ…という感じで注目度が低いのが残念。去年はアイルランドの新人作家を追いかけていたのですが、今年は著者みたいな純文学とエンタメの中間あたりを攻めている中堅〜ベテラン作家に注目しようかと考えてます。


震えるスパイ (ハヤカワ文庫NV)

震えるスパイ (ハヤカワ文庫NV)

コスタ賞受賞作。(感想)いま調べたらBBCで2012年にドラマ化もされてました。うわー観たい。


サリー役はシャーロット・ランプリング! なんて贅沢…