「The Wolf Border」(Sarah Hall)

きっかけは英ガーディアン紙に昨年末掲載された「作家・評論家が選ぶ2015年の一冊」みたいな特集:
http://www.theguardian.com/books/ng-interactive/2015/nov/29/best-books-of-2015-part-two

一体どんな本が挙がっているのか、つらつらと見ていて目に留まったのがこの作品。

The Wolf Border (English Edition)

The Wolf Border (English Edition)

えっ Sarah Hallって昔読んだ "The Electric Michaelangelo"の?私はそれからはチェックしていなかったけど、英国では中堅としてしっかり活躍していたのでした。懐かしくなって思わず新作を読んでみたら、これが思い切りツボにはまりました:


長年狼の保護活動をしているRachelは、故郷英国の伯爵から彼の領地に狼を放ち野生化させる、というプロジェクトを持ちかけられる。母や弟との確執があってしばらく故郷から遠ざかっていたRachelだが、母の衰弱とそれに続く死をきっかけに気持ちが揺れ動き、結局プロジェクトに参加する決心をするのだが…。


狼の野生化、という一種ロマンチックなお題目ながら、そこに渦巻くのは地元の名士や住民、政治家や環境保護団体などの様々な思惑。言い出しっぺの伯爵も一体どこまで本気なのか、それとも単に周りを利用したいだけなのか。Rachel自身も、父親違いの弟とその妻に対しどう向き合うかなど、これまでの自由だが孤独な人生とは違う生き方を模索する必要がある。そうしている間にも欧州から雄雌一対の狼が運ばれ、プロジェクトは粛々と進行する…。


近年話題のスコットランドの独立問題まで絡めながら、一つのプロジェクトに伴う複雑な人間関係が繊細に描かれていて読んでいて飽きなかったです。大人たちが陰に陽に駆け引きを繰り広げる一方で、狼たちは(そして赤ん坊も)生きるという本能的な欲求に従ってひたすら迷いなく生きていく。そのコントラストが非常に鮮やかで心に残ります。


主人公が学者肌の女性ということもあって、以前読んだ中アン・パチェット「密林の夢(State of Wonder)」をちょっと連想しました。こういう知的でかつ体を張って仕事してるヒロインって好きだなあ。

密林の夢

密林の夢


文章も固すぎず柔らかすぎずで読みやすく、過去の作品もまた読んでみたくなりました。ちまちまとでも地道に読んでいれば、時にはこんな思わぬ再会が待っているのか、とちょっと嬉しくなってみたり。ようし今年も頑張ろう。