「The Poets' Wives」(David Park)


先日読んだディキンソンが主人公の「Miss Emily」が面白かったので、詩人つながりで以前チェックしていた小説を読んでみました:


The Poets' Wives

The Poets' Wives


3人の「詩人の妻」たちの物語。
1人目はウィリアム・ブレイクの妻、キャサリン。そういえば以前にもブレイクが登場する小説を読んだことがありましたっけ:

Burning Bright

Burning Bright

(読書感想:http://d.hatena.ne.jp/shippopo/20080903


この時も参考にさせていただいたサイト「ウィリアム・ブレイクの詩とイラストの世界」ですが、彼の生涯についてもまとめられていて、キャサリンについても言及がありました。文盲だった彼女をブレイクが教育した結果、キャサリンはのちには制作の良きパートナーにもなって終生献身したとのこと。


とはいえ超絶的な幻視者であるブレイク、世間的には「アブない人」の一歩手前くらいの言動多数。初めは盲目的に彼を崇拝していたキャサリンも、歳を経るにつれて疑念と不安を抱くようになり反発もするのですが、しかしそれでも最後には彼のビジョンや感情を、その悩みや苦しみも含めて受け入れるようになっていきます。うーんなんて偉い奥さんなんでしょう。反省(?)。



2人目はロシアの詩人オシップ・マンデリシュタームの妻で自身も詩人であるナジェージタ。彼女についてはWikipediaに日本語の項目がありました:

◆「ナジェージタ・マンデリシュターム」(Wikipedia)
スターリンの抑圧により夫は収容所で死亡、彼女自身も各地を転々とする流浪の生活を余儀なくされます。
なんといってもすごいのは

オシップの残した詩の原稿を保存し、公表することが自分の人生の目的だと考えていたナジェージダは、その目的に即して詩の内容のほとんどを暗記していた。原稿のみに詩を残しておくのは危険であると考えていたためである。(Wikipedia)

夫はあちこちに愛人を作るし、詩人だから当然稼ぎは少ないし、スターリン批判以降は全く不遇の人生。それでも夫の才能を信じているがゆえに、あえて苦難の道を歩むナジェージダ。読んでてつらい箇所も多かったです。
彼女自身はその後、回想録を著して自らの才能を世に知らしめました:

Hope Against Hope: A Memoir (Modern Library (Paperback))

Hope Against Hope: A Memoir (Modern Library (Paperback))


オシップの作品については日本語訳も有り。でも詩を翻訳で読むのって難しい…:

詩集 トリスチア―エッセイ 言葉と文化 悲しみの歌 (群像社ライブラリー)

詩集 トリスチア―エッセイ 言葉と文化 悲しみの歌 (群像社ライブラリー)

詩集 石―エッセイ 対話者について (群像社ライブラリー)

詩集 石―エッセイ 対話者について (群像社ライブラリー)



3人目は架空のアイルランド詩人・ドンの妻リディア。夫の葬儀を終えようやく一息ついたリディアでしたが、遺言により最後に果たすべき仕事がありました。そのため彼女はロンドンから娘2人をわざわざ呼び寄せるのでしたが…。


このドンも数々の業績を打ち立てた立派な詩人なのですが、私生活では浮気しまくり(詩人ってモテるんだな)、家庭はないがしろ、そのくせ息子の事故死に際し切々たる哀歌を発表して世間の賞賛と同情を一身に浴びる…身内としては「お父さん勘弁して!」と言いたくなるのも分かります。それぞれに複雑な感情を抱えながら一晩を明かす母と娘の会話がとても濃密で読み応えがありました。
この詩人、誰かモデルがいるのかなあ。気になる…。



小説3つ分読んだような重厚感があって思いがけず時間がかかってしまいましたが、文章は端正で読みやすく、他の作品も読んでみたいと思いました。結構多作な作家のようなので今後の新作にも期待。