「City of Dis」(David Butler)


Kerry Group Irish Novel of the Year Award 2015 候補作。賞の詳細は実はよく知らないのですが(爆)、同じく候補作の "The Closet of Savage Mementos" (Nuala Ní Chonchúir)を先日読んで好印象だったので、審査員を信頼してこれも試してみようと思った次第:


City of Dis (English Edition)

City of Dis (English Edition)

City of Dis

City of Dis


アル中で盲目、のちに認知症まで患った母親の面倒を見ているうちに普通の人生を知らないまま35歳になった Will。母の死をきっかけに違う人生を歩もうと考えた Willだが、それから新しく知り合った人たちは不穏な行動で Willの生活に侵入してくる…。


昔はいじめっ子のガキ大将で今はチンピラ風情の"Danger"、ポーランドから来た奔放な恋人の Yelena、自殺するところをたまたま助けた Chester。そして昔からの知り合いだった神父の Ciaran。それぞれ全く個々の友人関係だったのが、Willの仕切りの悪さもあって少しずつ混ざり合い、最後には奇妙な事件へと発展していくわけですが、読み始めに心配していたような全く救いのない展開(いわゆる「ノワール」的な)にはならず、ちょっとしたトホホ感が全体的に漂っている感じです。少々読みにくいところもありましたが、登場人物たちがみんなちょっと風変わりで飽きさせないし、主人公の Willが良くも悪くも innocentなところがあってほっとけないという感じ。


City of Disというのは元々ダンテ「神曲」の地獄篇に出てくる場所で、日本語では「ディーテの市」などと訳されています。地獄には階層があって下へ行くほど罪が重くなりますが、このディーテの市(第5層と第6層の間)を超えると重罪確定、ということなのだそうな。
読んでいて気づくのはダブリン市内に実在する街路や名所が頻繁に差し込まれていることで、多分地図を片手に登場人物たちの足取りをじっくりたどって読んだらもっと面白そう。(旅行で尋ねた Winding Stairとか出てきてビックリした&嬉しかった!)ダンテと重ねて「ダブリン版地獄巡り」の趣きもあるし、あるいはジョイスユリシーズ」の伝統を踏襲しているとも言えるのでは。