「The Undertaking」(Audrey Magee)
The Irish Times Book Clubの推薦図書。デビュー作ながら数々の文学賞候補にもなった話題の一冊です:
The Undertaking: SHORTLISTED FOR THE BAILEYS PRIZE FOR WOMEN’S FICTION, 2014 (English Edition)
- 作者: Audrey Magee
- 出版社/メーカー: Atlantic Books
- 発売日: 2014/02/06
- メディア: Kindle版
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第二次大戦が始まって間もなく、紹介所の斡旋で見ず知らずのドイツの若者たちが結婚する。目的は結婚休暇、世間体、戦後もしくは戦死時の年金と実利的なものだったが、結婚休暇でやっと出会った二人は互いに好意を寄せる。2週間ばかりの慌ただしい休暇が過ぎ、夫は戦地ロシアへ赴き、妻はベルリンで銃後を守るのだったが…。
開戦当初はドイツ人もすぐに自分達の大勝で戦争が終わると楽観的に構えているわけですが、後世に生きる私たちはスターリングラードに代表される悲惨な戦況や、終戦前後のベルリンの荒廃ぶりを既に知っているわけで、戦後の明るい未来を無邪気に信じる若い二人の手紙の遣り取りや周囲との会話には、一層やりきれない思いになります。
(参考)
- 出版社/メーカー: ケンメディア
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お互いのことをほとんど知らないがために、夫婦としての愛情が非常に純粋な形で守られているという設定が面白かったです。夫は祖国にいる妻と子供(休暇中にちゃんと妊娠した)のために戦い、妻は戦地の夫を心に掛けながら不便に耐えるという構図。何の疑いもなく勝利を願ってひたむきに生きる一般市民の姿が描かれます。
ただし純朴な市民は自分たちが加害者側に立つことにも無自覚で、ユダヤ人や共産主義者から資産を略奪することには何の迷いも見られません。その辺も率直に描いているところがなかなか上手いです。ナチス高官に頼ることで比較的良い目を見てきた妻側の家族は、そのために後で手痛いしっぺ返しを受けることになります。
著者はこの小説を書く以前はジャーナリストとして長年新聞に記事を書いていたとのことで、淡々とした描写と会話を積み重ねて「普通の人々」の心の動きを追っていく語り口に手堅いものを感じました。決して目新しい内容ではありませんが、引き寄せられるようにぐいぐい読める作品でした。
The Irish Times Book Clubの推薦本はこれまで3冊読みましたが、いずれも文学的過ぎず、かといって大衆的過ぎずといったアイルランド人作家の作品を紹介してくれるので結構信頼しています。しばらく読み続けようかな。