「The Closet of Savage Mementos」(Nuala Ní Chonchúir)

アイルランドの新聞「The Irish Times」で先月のBook Club課題図書に選ばれていたのをきっかけに読んでみました。著者名からしアイリッシュ、という感じが良いかなーなんて軽い気持ちで(しかし発音できない…):


The Closet of Savage Mementos (English Edition)

The Closet of Savage Mementos (English Edition)

1991年の夏。エキセントリックでアル中気味の母親の元で育った21歳のLillisは、幼馴染Donalの事故死をきっかけに故郷のダブリンを離れ、スコットランドのリゾート地で働くことにする。父親ほどの年である雇い主とも恋仲になり、新しい生活を満喫しようとしたLillisだったが…。


読み始めから瑞々しい文章に惹き込まれました。芸術家肌でいかにも扱いにくそうなタイプの(しかし娘を愛していないわけではない)母親との葛藤、同じ境遇の兄への反発と共感、弟以上恋人未満の幼馴染との触合い、包容力はあるけれどつかみどころがない年上の恋人への苛立ち…決して目新しい筋書きではないのにぐいぐい読まされてしまう感じ。著者は元々詩や短編小説に定評があるということで、なるほど歯切れが良く音楽を感じさせるような文体が心地よいです。(冒頭部分はこちらで読めます)


中盤でLillisの妊娠が発覚し、あららこれはいわゆる「妊娠小説」ぽい流れになっちゃうのかな?と不安になったところで突然に話は20年後に飛び(!)、40歳を過ぎたLillisが当時から現在までを振り返って物語るという展開に。これには結構意表をつかれました。しかもこれがちょっと前半からは予想外の成り行きで、ああでもこういうものかもね人の生き方なんて絶対予想つかない…と読み進めるうちに納得してしまうのでした。終わり方も悪くない。


というわけで、さほど尺が長くないこともあって一気に読了しました。これからもっと注目されそうな著者、とりあえず次の長編は Nuala O'Connorという名前で発表するとのこと。まあその方がみんな覚えやすいよね、とは思いつつちょっと寂しい気も。


個人的にはアイルランド人から見たスコットランド(またはその逆)が描かれていて新鮮でした。同じケルト系でも気質も歴史も違うから安易にまとめてはいけないのよね、当然ですが。