「Arctic Summer (Damon Galgut)

Arctic Summer (English Edition)

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きっかけはNY Timesのこの記事:
http://www.nytimes.com/2014/09/28/books/review/damon-galguts-arctic-summer.html?_r=0

E・M・フォースターの長編『インドへの道』が出来るまで、の物語。
実はフォースターってちゃんと読んだことがありません(汗)。主な映画は一通り観てるけど今一つピンと来るものがなくて原作まで踏み込む気が起きなかったのです。

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じゃあなんで?と言うと、史実ものは一般的に読みやすいという現実的な理由もありますが、以前読んだ著者Damon Galgutの"The Good Doctor"が良かったので今回もそんなに外さないかな、と思ったわけです。


そういえば映画『モーリス』をきっかけに日本でも英国美青年ブームぽいのが起きたことがありましたっけ。同性愛者だった著者フォースターは、しかし執筆当時(20世紀初め)の英国ではとてもカミングアウトできる状況になく、本人の死後まで出版は控えられていました。この"Arctic Summer"という題名も、もともとは同時期に書いたその種の短編集(こちらも一部の知人に見せただけで未完成)につけられたものだとか。


フォースターがインドに惹かれるようになったのも、英国で出会ったインド人の友人(というか恋人)の存在が大きかったようで、その辺のなりそめからインドへの2度の渡航、間に挟まるエジプトの滞在(と若きエジプト人との関係)などが丹念に描かれていきます。


相手と対等(ホモソーシャル)な関係でありたいと思いながら、社会的には「裕福な白人」と「植民地の有色人種」という格差を無視するわけにもいかず、実際英国で欲望を抑圧されていたのも、その欲望を異国で解放することが出来たのも、彼が支配者側の白人だったからで…と、その背景はなかなか複雑。英国人の同好の士は出世と保身のため割り切って普通の家庭を持つか、もしくは「その筋の人」として世間で蔑まれるか…どちらの道も選ばなかったフォースターは、彼なりの茨の道を進んでいきます。


南アフリカ出身で本人もゲイである著者にとって、当時フォースターが抱えていた社会的「格差」「差別」に対する葛藤はより身近に感じられたそうです。私自身は読み終わってフォースターに感情移入する、とまではいかなかったけれど、とりあえず『インドへの道』はきちんと読んでみようと思ってます。あと小説以外にインドについて書かれたエッセイとか。


インドへの道 (ちくま文庫)

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◆参考:「松岡正剛の千夜千冊:『インドへの道』」:http://1000ya.isis.ne.jp/1268.html

読み始めは主人公フォースターとどういう距離感を取ったらいいのか良く分からなくて悩んだのだけど、↑読んだら大分頭の中が整理されました。さすがセイゴー先生。