「F: A Novel」(ダニエル・ケールマン)

わーいケールマンの新作が英訳でキタ!というわけで早速読みました:

F: A Novel

F: A Novel


催眠術師のショーを一緒に観たあとで、何故かあっさりと失踪してしまった父親Arthur。
残された3人の息子も今は成人し、悩みと問題を抱えながら現代社会を生きている。Martin(前妻の子)は神を信じない聖職者に、Eric(後妻の子)は仕事も私生活も破滅寸前の金融関係者に、そしてIvan(後妻の子でEricとは双子)は危ない橋を渡るアート関係者に。そしてまたあっさりと戻ってきた父親は、読んだ人が思わず自殺したくなる小説を世に送り出して一躍有名人に…。


このなんとも奇妙で家族と呼ぶにはあまりにも結束のない一族のジタバタぶりが、ケールマンならではの飄々とした文体で小気味よく描き出されます。タイトルの「F」は Fatum(運命)だったりFamilie(家族)だったり、もしくは単純に彼らの姓であるFriedlandだったりもするような。
息子たちそれぞれの視点で描かれた各章が『パルプ・フィクション』みたいな時系列のズレを生み出しているあたりも面白いし、父親の小説という体裁で作中の中ほどに差し込まれている作中作の「Family」が短いがゆえに相当エグい語りでひやっとする感じ。コンパクトな中に様々な要素が埋め込まれていて夢中で読んでしまいました。


読んでいるうちに、家族構成とか現代社会への風刺性とか、これ何かフランゼン『コレクションズ』に近いものを感じさせるなあ…と思いつきました。

コレクションズ (上) (ハヤカワepi文庫)

コレクションズ (上) (ハヤカワepi文庫)

コレクションズ (下) (ハヤカワepi文庫)

コレクションズ (下) (ハヤカワepi文庫)


そういえばフランゼンはドイツ語も堪能で、確かケールマンとも親交があったんじゃなかったっけ…とネットで記事を探してみたら、正にドンピシャ!なインタビュー記事を salon.comで発見。『コレクションズ』からの影響についても本人がちゃんと触れています。


とはいえ、全てにおいて圧倒的にヘビーな『コレクションズ』に対し、ケールマンのアプローチはあくまでドライでクール。にやにやしながらあっという間に読了してしまってあーもっと長く読んでいたかったなあ。これ、各人のキャラも立ってるから映画化されるんじゃないの、とちょっと期待してます。
(しかしその前に『僕とカミンスキー』の映画はどうなったの?と調べたら一応post-productionまでは漕ぎつけたみたいだけど公開予定は未定。うーん大丈夫かしら…)


僕とカミンスキー

僕とカミンスキー