「The Interview」(Patricia O'Reilly)

kindleで購入。きっかけはThe Irish Timesの紹介記事:
"When Bruce Chatwin met Eileen Gray: the star writer and the elusive designer"

The Interview

The Interview


アイリーン・グレイはアイルランド出身で主に20世紀初頭に活躍した芸術家。絵画から家具、更には建築までと、その創造力と行動力は晩年まで衰えることがなかったとか。創作に限らず飛行機に乗ったり、大戦中は慈善活動として救急車の運転(!)をしていたそうな。
この小説を読むまでは何となく名前は知ってるかな?くらいの認識だったのですが、↓のテーブルなんて今見ても素敵で欲しくなる。



自由な女性というあたりが同時代的にはココ・シャネルぽいかな?と連想していましたが、本人は(小説内では)シャネルのように社交界に興味はなく、ひたすら我が道を行くという感じ。恋愛の方も、当時有名だった女性歌手・ダミアに一時期熱烈に恋心を寄せるなど、ほんと我が道を行ってる…(ちなみに両刀)。


老いて一時忘れられていたグレイが再び世間の話題に上るのは1972年、彼女の昔の作品がオークションにかけられ、イヴ・サンローランが高値で競り下ろしたことがきっかけ。そしてある駆け出しのジャーナリストが彼女の生涯を記事にしようとパリの彼女の住まいを訪れる。青年の名はブルース・チャトウィン


どうして僕はこんなところに (角川文庫)

どうして僕はこんなところに (角川文庫)


主要作品を読んでない私ですらイケメンであることを知っている(笑)チャトウィン。作中でも彼の顔立ちと気立ての良さは頻繁に言及されています。


一見何の接点も無い二人ですが、サザビーズに勤めたのちに考古学を学び、ようやく書くことを天職と定めるも試行錯誤中のチャトウィンに、自分の情熱の赴くままに創作範囲を広げていったグレイの生き方は何らかの示唆を与えたのでしょう。グレイもまたチャトウィンのさりげない気配りに少しずつ警戒を解き、自分の過去を語り始めます。


結局このインタヴューは記事になることはなかった…けれども1976年、グレイは彼女の死後に自分の描いたパタゴニアの絵をチャトウィンに遺贈したのだそうです。パタゴニア!!

パタゴニア

パタゴニア

原書は1977年刊。


なんとも不思議な巡り合わせを描いた小説。こういう史実+αの話は読みやすいし色々調べがいがあって大好きです。著者は以前にもグレイを主題とした小説を書いているそうで、そちらはどんな切り口なのか、機会があったら読み比べてみたいなあ。

Time And Destiny

Time And Destiny

kindle版は出てないみたい…)


昨年ポンピドーセンターで回顧展が行われるなど、再評価が進んでいるアイリーン・グレイ。先日ドキュメンタリー映画も完成したそうで、いつか日本でも観れますように。


チャトウィンもそろそろ真面目に読もうかなと思ってます。まずは新刊の↓あたり。訳者がアイルランド文学好きならご存知の栩木伸明氏なのがまた気になる…

黒ヶ丘の上で

黒ヶ丘の上で

◆参考
http://www.eileengray.co.uk/(インテリアデザインの会社ARAMによる紹介サイト)
http://www.patriciaoreilly.net/html/eileen_gray.html(著者自身によるグレイ紹介サイト)