先月読んだ本から

うむ、とりあえず8月よりは真面目に読んだ…


この世の富

この世の富

『この世の富』:遺作『フランス組曲』に興味はあるけど長いし未完だし…と躊躇している人がいたら、まずはこちらを読んでみては。二つの大戦を経験していく中で、移り変わっていく一組の恋人たちとそれを取り巻く家族の物語。淡々とした筆致ながら力強い内容。これふくらませて連続ドラマで観たいなあ。


ゴールドスティン 上 (創元推理文庫)

ゴールドスティン 上 (創元推理文庫)

ゴールドスティン 下 (創元推理文庫)

ゴールドスティン 下 (創元推理文庫)

相変わらず「短気は損気」なラート君なのであった。話そのものは意外とあっさりしているけれど、ナチ台頭前夜の不穏な雰囲気が感じ取れて面白かったです。トム・ティクヴァがプロデュースするというTVシリーズが今から楽しみ。


北京から来た男 上

北京から来た男 上

北京から来た男 下

北京から来た男 下

『北京から来た男』:うーんこれはちょっと風呂敷を広げ過ぎて最後に収拾がつかなくなったという感じ。ただ主人公(の一人)が若い頃に中国共産主義にかぶれて過激派に一瞬属していた、という過去が印象的。失われた理想はどこかで取り返せるのか?という問いはシュリンク『週末』を少々思い起こさせました。

週末 (新潮クレスト・ブックス)

週末 (新潮クレスト・ブックス)


複製された男 (ポルトガル文学叢書)

複製された男 (ポルトガル文学叢書)

『複製された男』:いわゆるドッペルゲンガーものなんだけど、主人公は離婚後は精神的に不安定かつ鬱状態で、今の恋人にもぐずぐずと煮え切らない態度。そんな精神状態を表すための一見まわりくどい(でも結構笑える)描写がこの作品の読ませどころなんだと思います(まあそんな状態だからドッペルゲンガーにも会っちゃうんでしょうが)。映画の方はかなり脚色もされているようで、わかんないわかんない!と言う人続出みたいなのでDVDになったら観てみるつもり。ジェイク君結構好きだし。




とはいえ、9月の目玉はむしろこちら↓:


『クアトロ・ラガッツィ』:いつかは読もう読もうと思いつつ月日は流れて著者は亡くなり文庫本が出て…と随分遅くはなりましたが、夏休みあたりから一カ月かけてようやく読了。
著者は長年ミケランジェロを中心とした美術史研究を続けてきたわけですが、その中で「現代の日本人がルネッサンスの西洋美術を研究し理解することに一体何の意味があるのか?」という問いを抱えるようになったとプロローグで述べています。そのような問題意識を自らに抱えながら読み解かれるイエズス会の布教活動と当時の日本でのキリスト教浸透の様子は、教科書的なあたりさわりない解釈とは違い、常に異文化に接触し理解していくことの難しさを読む側にも突きつけてきます。日本側と欧州側、双方の膨大な資料を読み比べて紡ぎだされる物語に圧倒されまくりの刺激的な読書でした。
(学生時代に受講した若桑先生の現代美術論は今でも強烈な影響を私の中に残しています。もっともっと活躍していただきたかった…)


文中でしばしば言及されるウォーラーステインの「近代世界システム論」については↓でささっとおさらい:

知の教科書 ウォーラーステイン (講談社選書メチエ)

知の教科書 ウォーラーステイン (講談社選書メチエ)


直接関係ないけどアマゾンで参考資料を探していたらこんなのまで売ってました:

日本はすごいねえ…


10月は英語読みを再開する予定!あくまで予定…