「The Universe versus Alex Woods」(Gavin Extence)


英国の大型書店チェーンのWaterstonesが選ぶ、新人作家のデビュー作に贈られる"Waterstones 11"。今年の受賞作の中でもこれは特に評判が高そうだったので読んでみました:

The Universe versus Alex Woods

The Universe versus Alex Woods


占い師のシングルマザーと2人家族で、それでも平和に暮らしていた11歳のアレックスの生活はある日一変する。空から降ってきた隕石が自宅の屋根を突き抜けて頭に当たり、病院に運び込まれたのだ。しかもその時の怪我が原因で、てんかんの発作を起こすようになってしまう。自身をめぐる突然の環境変化に対し、それでもひたすら前向きに奮闘するアレックス。隕石について調べるうちに宇宙物理学者と仲良くなり、てんかんの発作を抑えるために医学系の書物で知識を蓄える。
そしてようやく容態が安定してきたアレックスは学校にも通えるようになるのだが…。


持病という訳ではないけれど、自分の身体的リスクを子供ながら冷静に観察し描写する姿勢に↓を思い出しました:

夜中に犬に起こった奇妙な事件 (ハリネズミの本箱)

夜中に犬に起こった奇妙な事件 (ハリネズミの本箱)


隕石もてんかんも勿論大事件なのだけど、このような一風変わった体験を持つアレックスは、クラスの中では異質な存在としていじめの対象になってしまいます。以下のような描写はまるで万国共通の子どもの残酷さを示しているようで、胸が痛くなります:

In secondary school, being different is the worst crime you can commit.(略)Being cruel is fine. Being brutal is fine. Being obnoxious is fine. Being superficial is fine. Explosive acts of violence are fine. (略)Holding someone's head down the toilet is fine(略). None of these things will hurt your social standing. But being different --- that's unforgivable.(Chapter 6)


更にアレックスが述べる"being different"の定義がまたふるっています:


1)貧乏であること。といっても親の収入云々ではなく"the right stuff"、例えばナイキのスニーカーやプレイステーションやケータイを持っていなければアウト、2)身体面で普通と違っていること、3)精神面で普通と違っていること、4)友達や親類に変な人がいること、5)ゲイであること(実際にそうでなくても「あいつゲイっぽい」と思われたらダメ。本を読んだり感受性を強いところを見せたらそれでアウト)


悲しいかな、全項目に当てはまってしまったアレックスは執拗ないじめっ子から逃げまくる日々を送るのですが、ある日偶々逃げ込んだ家でベトナム戦争帰りの偏屈なアメリカ人、ピーターソンと出会います。お互いに「異質」な存在だったからこそ通じ合うものもあったのでしょう、年齢を超えて2人は親友になります。


ピーターソンの死んだ妻が愛読していたというカート・ヴォネガットの小説をアレックスも好きになり、ついにはヴォネガット限定の読書会まで主催します。もっとも最初はこんな表紙↓に惹きつけられたわけですが…

The Sirens of Titan
"You could see their nipples."


終盤は少し悲しい展開で、人によって解釈が分かれそうですが、それでも常に真摯に「世界」と立ち向かうアレックスが読むうちに愛おしくなってきます。今の十代の人たちに読んでもらいたい、そしてちょっと人と違っていても良いんだよ、と元気づけてあげたくなるような作品です。