「消えた国 追われた人々 −東プロシアの旅−」(池内紀)

図書館にて借出し:


中世の頃から東方開拓を進めてきたドイツ人が、第二次大戦終結前後に住み慣れた土地や財産を残しての引き上げを余儀なくされ、終戦以降ドイツは常に戦争の「加害者」として扱われるためうかつに話題にできず…そんな状況も今世紀に入ってから変化し、しばしば関係者の証言がドイツのメディアで取り上げられるようになりました。ちょうど私がそんな時期にドイツに滞在していたこともあって、日本ではなじみの薄い話題ですが関心を持っています。


参考:「東方ドイツ人と東欧の地の難しい関係」(高橋容子、2006年ドイツニュースダイジェスト記事)


返還がどうの補償がどうのという話は現実味が乏しい主張のように感じられ、それでも生まれ育った土地に郷愁を覚え、いつかは帰りたいと願うのは自然な感情だと思うので、国境という縛りが薄れつつある欧州で、これら東方の地にも気軽に立ち寄れるようになってきたのは喜ばしいことでしょう。もちろん新たな問題も生まれるのでしょうが…。


著者が東プロシアに興味を持ったのは、「グストロフ号事件」を取り扱った下記の小説の翻訳を依頼されてからとのこと:


蟹の横歩き―ヴィルヘルム・グストロフ号事件

蟹の横歩き―ヴィルヘルム・グストロフ号事件


(グストロフ号事件に関しては、最近史実に基づいた映画も作られました(私は未見)。この予告編を観たらどういう内容か全部わかってしまうな…)


その時に取材を兼ねて訪れたのをきっかけに合計で三回足を運び、あちこちの小都市を訪ねた旅行記が本書です。かねてよりエッセイストとしても知られる著者なので、重苦しい歴史が背景にありながらも、なんともゆったりした筆運びで、日本でもおなじみのコペルニクスやカントといった著名人を引きつつ未知の土地を軽妙に紹介してくれます。映画「ワルキューレ」でも知られるヒトラー暗殺未遂事件が起こったのも東プロシアのラステンブルクです(現地は蚊が多くて兵隊さんたちは大変だったらしい)。



(ここではドイツ製作の「オペレーション・ワルキューレ」を挙げておきます)


中でも私が一番傑作に思ったのはオストルダ=エルブラング運河を渡る水陸船。船なのに山を登っていくって、それってまるで映画「フィッツカラルド」ぢゃあないですか!

思わず↑↓比較してしまった…ギャップが激しいわ…


読んだ後で面白いなあ行ってみたいなあと思える場所が満載の紀行集でした。いつか機会があると良いけど。



ヴォルガ・ドイツ人―知られざるロシアの歴史

ヴォルガ・ドイツ人―知られざるロシアの歴史

場所が大分違うし、ちょっと専門的で読みにくかったですが、貴重な関連資料の一つとして。

これはそのうち読む予定。