「The Lighthouse」(Alison Moore)


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The Lighthouse

The Lighthouse

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2012年ブッカー賞のshortlist(最終候補作)作品。
ブッカー賞のshortlistは勿論その前のlonglistまで、発表されたら目で舐めまわすように情報をチェックしていた、そんな時期が私にもありました…(遠い目)。


主人公のFuthは幼いころ母に捨てられ、そして今度は妻からも去られてしまうという可哀相な境遇なのだけど、読んでいて同情よりトホホな感じが先行してしまう、なんとも残念な男性。


母親が突然家から居なくなったトラウマがずーっと尾を引いていて、それが遠因で奥さんも離れてしまうのだけど、大体その奥さんに興味を持つきっかけというのが母親と同じ名前だったから、となると女性としては「それはちょっとアカンやろ…」と言いたくなる。


奥さんから家を追い出されて傷心の彼が実行するのがライン河沿いに1週間ウォーキング、というのもなんだかヘン(一応意味はあるのだが)だけど、日焼け止めをあちこち塗りたくったのに顔にはつけ忘れたとか、おろしたての靴で速攻で靴擦れができるとか、臆病で慎重な割にはどうにも間が抜けている。そんな散々な状況の中で様々な思いにふけるFuthの回想から、次第に彼と家族の間の過去の出来事が明らかになっていく…。


この小説を特異なものにしているのはEsterという女性の存在。彼女はFuthが最初に泊まったB&Bの女主人だが、この時はほとんど事務的なやりとりだけで次の日にFuthは出発する。
ここから章毎にFuthとEsterが交互に中心人物となる形で物語が進んでいくのだが、全く接点が無いのにも拘らず2人のシンクロ率が高いことが読んでいて段々と分かってくる。
家族や恋人との複雑な関係、思い出に結びつく特定の品物、好きな香りに動機づけられた寂しさや懐かしさの感情…ぴったり重なることはないけれど同じ形の悲しみを抱えているような、そんな不思議なつながりを感じてしまう。


ウォーキングの最終日にはFuthはEsterのB&Bに戻ってくることになっていて、さあいよいよこの二人の間に何かが起こるのか?
その顛末は…読んでのお楽しみに。


不思議な味わいでなんとも余韻の残る作品でした。
文章も平易で量的にも手頃だし、もともと短編小説で力をつけてきた作家なので描写が丁寧、しかも一章ごとにメリハリが利いているので読んでいてダレないから、もおみんな遠慮?しないで原書で読んじゃおうよ!という意味でもおススメできる一冊です。