「Ghost Light」(ジョセフ・オコーナー)


遂にkindle日本上陸、というわけで、とりあえずスマホにアプリ入れて1冊読んでみました:


Ghost Light

Ghost Light

(実際に買ったkindle版はこちら


ジョン・M・シングといえば、イェイツやグレゴリー夫人と共に19世紀末のアイルランド文芸復興運動を盛り立てた人物。
創作は戯曲中心だったので演劇に疎い私は実際の作品をよく知らないが、それでも紀行文『アラン島』は読んだ
(そしてアラン諸島にも行った…):


アラン島 (大人の本棚)

アラン島 (大人の本棚)


「Ghost Light」のヒロインは、難病のため40才にならず亡くなったシングの恋人であり、彼の演劇制作活動の中心にあった
アベイ座の女優でもあったMolly Allgood (芸名 Maire O'neill)。同じく女優である姉のSara Allgoodの方が有名のようだけど
2人とも初期のヒッチコック映画に出ていたりするらしい。


このモリーとシングの恋物語が一応は話の中心だが、いわゆる歳の差カップルでシングが死んだ時モリーはまだ24歳、
愛する人が死んでからも人生はまだまだ続く。しかも女優という華やかで誇り高き職業、
自身も当時のアイルランドの保守的な人達が驚くほどに率直で奔放な性格。
そりゃあ地味で平凡な暮らしは望めない。


老いモリーが過去を振り返るという設定で書かれているので、時系列があっちこっちに飛んだり人称が突然変わったりして
しばらくは読み進めるのに苦労したが、この書き方はいわゆる「意識の流れ」っぽいなー?と思ったらなんだか納得してしまった。
多分モリーつながり?で『ユリシーズ』も意識しているような。



古めかしい単語やアイルランド特有の言い回しも多いのにも難儀したが、kindle版は英和辞書とリンクしている(画面上で
分からない単語をロングタップすると説明文がポップしてくる)ので時間はかなり節約できた。実際、この機能があったら
大抵の英語本は読めちゃうんじゃないの?


シング、イェイツ、グレゴリー夫人といったスーパースター達がアベイ座で演劇論を戦わせたりする場面などアイルランド
好きとしては何とも贅沢な気分を味わえる。イェイツはちょっと偏屈なおじさんに描かれていて、あとがきで作者が
「イェイツのファンの皆さんごめんなさい多分ホントはこんなんじゃないから」と謝っている(笑)。とはいえやっぱり
いつも情熱的なモリーの魅力がこの小説の一番の読みどころだと思う。


タイトルの「Ghost Light」は演劇用語で、本文中にも説明がある:

Ghost light. An ancient superstition among people of the stage. One lamp must always be left burning
when the theatre is dark, so the ghosts can perform their own plays. (Chapter 12)


暗転した劇場に潜む幽霊。
追想の中で故人を償還するモリーは、まるで幽霊と一緒に舞台で様々な役を演じているようだ。



(上記の画像&"ghost light"のもっと詳しい説明はこちらから)


スマホの小さな画面は決して読みやすくはないけど、せっかくkindle導入で洋書熱が復活してきた(和書は9割方図書館で
借りて読むのであまり重要視してない)ので引き続きこのまま何冊か試してみるつもり。
(専用リーダーも、そりゃくれるって言うならもらうけどねー)