さて、珍しくドイツ語圏の小説が相次いで?出版されたので、せっかくだからまとめてご紹介:
「階段を下りる女」:年上の謎めいた女性の誘いから始まる過去への旅、という点では「朗読者」に近いものがあるけれど、さすが
シュリンク先生、年々
エロ度 人生へのアプローチの深遠度が高まっているという印象。話の運び方も一筋縄ではいかない、でもそれが読んでいて楽しくてたまらない。やっぱり新作が出るたび読まずにはいられません。
「静寂(ある殺人者の記録)」:異常に聴覚が発達した青年が引き起こす
罪と罰の物語、とまとめたら、それジュースキント「香水」の聴覚版変態物語?(←これはこれで誉めている)と思ってしまうのだけれど、読んでみると犯罪者である主人公に意外にも共感を覚えてしまったり。静寂こそが平安と考える主人公には、世間をかき乱す騒乱は悪であり、すべてを静寂に戻す死は正義であっても罪ではありえない。そんな心情が結構身に迫る展開に我ながら驚きました。
「キオスク(はじめて出会う世界のお話
オーストリア編)」:母のもとを離れて田舎からウィーンへやってきた青年に訪れる恋の予感と忍び寄る
ナチスの影。青年の成長を促す媒介として登場する亡命直前の
フロイト老人との会話が、物語全体を引き締める。「はじめて出会う物語」がこんなのだったらちょっとうらやましいかも。いや、読書にくたびれたおじさんおばさんにも充分おススメでしょ。
「儀式」:こちらは元々原文が
オランダ語なのですが、今回、松永氏がドイツ語版から訳しているのは、
オランダ語翻訳者の数が少ないからってことなのでしょうか。まあドイツ語と
オランダ語はかなり近そうだし、ノーテボームはドイツでも人気があるから変なドイツ語訳は出回らないとは思うけど…。内容の方は、えーと、淡々と、しかし着々と(つまり儀式のように)
自死に向かう親子がかなりやばいです。「静寂」↑の連続殺人よりこっちの方が断然怖い。しかもそれを日本の茶道になぞらえている辺りがまたヒヤッとする。この居心地の悪さがたまらない(←これもかなりやばい)。