先月読んだ本から

前の家の桜が満開です。これ1本で充分お花見満喫:


その姿の消し方

その姿の消し方

「その姿の消し方」:小説とも随筆とも詩とも区別をつける必要なく、ただその細心な文章にひたすら没頭したくなる。堀江氏の作品はそんな宝物のような有難い存在です。今回また一つ頂点を極めたなあという感じ。




夜、僕らは輪になって歩く (新潮クレスト・ブックス)

夜、僕らは輪になって歩く (新潮クレスト・ブックス)

物が落ちる音 (創造するラテンアメリカ)

物が落ちる音 (創造するラテンアメリカ)

「夜、僕らは輪になって歩く」/「物が落ちる音」:ラテンアメリカ各国の歴史(というか血なまぐさい近過去)を今に生きる私たちがどう語るか、という点について、この2冊はどちらも当事者でない若者が探りながら物語を紡いでいくという構成を取っているのが印象深い。決して声高でなく、体験者に寄り添いつつ、自らも生き辛さに悩みつつ語る語り手たち。まだまだ客観的には捉えられない、生々しい記憶がそこにはあるのだろう。それを伝えることが作家の使命ならば、ちゃんと受け取ることが読者の使命なのだと思う。




「黄昏の彼女たち」:サラ・ウォーターズに「彼女たち」とか言われたらそれだけでもうワクワクしちゃいますね。話は王道というか鉄板というか安定感のある筆運びである分、読了後の喪失感(恋愛の大切な何かが失われてしまったという予感)がなんとも苦い。TVドラマで観たいなあ。
巻末の大矢博子氏の解説が、同作とルメートル「天国でまた会おう」を大戦間小説として比較するなど示唆に富んだものでした。なるほどそういう見方もあるんだなあ。
天国でまた会おう

天国でまた会おう




道化と王 (ヨーロッパ歴史ノベル・セレクション)

道化と王 (ヨーロッパ歴史ノベル・セレクション)

「道化と王」:メリヴェルどんだけ王様が好きなんだ!とツッコミたくなりましたが、多分当時の王の権力(と魅力)は絶対的なものだったんだろうなあと推測する次第。先日「ウルフホール」のドラマを観たこともあって、王に仕える家来達の愛憎入り混じった感情になんだか溜息。

恋の闇 愛の光 [DVD]

恋の闇 愛の光 [DVD]

せっかくなので映画化されたのも観てみましたが、メリヴェル役にロバート・ダウニーJrというキャスティングが良い。原作の「かなりダメ男」感が上手く消化されて好感の持てるキャラになってました。しかしイアン・マッケランが召使なんて贅沢や!

Merivel: A Man of His Time

Merivel: A Man of His Time

続編も訳されるのだろうか…?




異国の出来事 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

異国の出来事 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

異国の出来事」:不倫絡みの話が結構多くて、まあ不倫はなんだかんだ言っても結局はゲスな行為だと言ってしまえばそれまでなのですが、それがゲスな文章にならないのがさすがトレヴァー。「恋と夏」に続きハンマースホイの絵画を用いた装丁が静謐な中に不安を感じさせてピッタリ。怖い。
恋と夏 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

恋と夏 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)




軋む心 (エクス・リブリス)

軋む心 (エクス・リブリス)

「軋む心」:アイルランドの新鋭作家のデビュー作。複数の人物の語りが重なり合って地方の閉塞性を描写する、という構成に少し山内マリコ「ここは退屈迎えに来て」を連想しましたが、こちらの方が殺人や誘拐などもあって一層ハード(というか物語として分かりやすい)。最初に主要人物ボビーの語りを持ってくる辺りも分かりやすくて良いのだけど、これ抜きで話を成立できていたら小説的にもっと面白くなっていたのでは…と考えるのは読者の我儘でしょうか。新作も順調に発表しているので今後の翻訳にも期待。
The Thing About December

The Thing About December

A Slanting of the Sun: Stories

A Slanting of the Sun: Stories

ここは退屈迎えに来て (幻冬舎文庫)

ここは退屈迎えに来て (幻冬舎文庫)