『氷山の南』(池澤夏樹)


図書館にて借出し:


氷山の南

氷山の南


極めて現代的な、そして極めて池澤夏樹的な海洋冒険小説
南極から氷山を曳航し、水資源として利用する…というプロジェクト実現化のために
オーストラリアから出航したシンディバード号。その船に密航(!)した日本人と
アイヌ人とのハーフである少年・ジンは、後に船員としてそのプロジェクトを間近に観察しつつ、
船という一つの共同体で働く様々な人たちとも交流を深めていく。更に外部からは不可思議な
宗教組織「アイシズム」の妨害も始まって…。


科学的リアリティ、スピリチュアルな世界への誘い、環境と自分との関係の言及、そしてなにより
物語ることの楽しさに満ちた作品。様々な要素が盛り沢山に、でも決して押しつけがましくなく
バランスよく提示されるので、眠っていた好奇心が次々に触発されていきます。色々な職種の人が
出てきてそれぞれの立場から話をするので、お仕事小説としても面白い。


大人が読んでも勿論興味深いんだけど、むしろ高校生くらいの年齢の人に読んでほしいという気がします。
環境問題について考えるも良し、カヤックに挑戦してみたくなるも良し、はたまたパンを焼きたく
なるのも良し、とにかく世界がまだまだ多様性と可能性に満ちた場所だということが、この本を読んだら
素直に分かってもらえるような気がするから。


過去の池澤作品の例にもれず、今作の女性たちも活動的で魅力的。ちゃんと自分の意志で動いてます、
って感じで好感が湧くのです。ちなみにベッドに誘うのも大抵は女性からだなー(照)。