「犯罪」(フェルディナント・フォン・シーラッハ)


図書館にて借出し:


犯罪

犯罪


読み始めは、ありがちな「現役辣腕弁護士が語る特殊犯罪ファイル」みたいなノリかと思ってました。
そっけないほど簡潔な文体だし、各編が短いので構成に凝るという感じでもない。
でも読み進めていくうちに。語り手である「私」の立ち位置が段々と気になってきました。


「私」は弁護士なので、当然依頼人の意向に従って被疑者を弁護する。被疑者は潔白なのか、
真実はどうなのか、それは罪に問われるべきものなのか、といったことよりも法律に照らし合わせて
できるだけ依頼人の望みに近い内容の判決に落とし込むのが仕事。
もちろん法治国家なのだから、法に基づいて有罪・無罪を判断するのは当たり前。けれど時として
「法律は要求が高すぎる」(P.215)。法の解釈では掬い切れないそれぞれの事情や関係者の心情を
フィクションという形で提示したい、という思いが湧いてくるのは必然なのかもしれません。


通常よくある「訳者あとがき」が無かったので、どの程度まで事実でどこからが創作なのかが
ちょっと掴めなかったのですが、Web上で訳者によるかなり詳しい解説を読むことが出来ました:


●「ここだけの訳者あとがき」(東京創元社"Webミステリーズ!"内):
http://www.webmysteries.jp/afterword/sakayori1106-1.html


「einsam」の解釈が心に響きました。あとリンゴ、気になりますよねえ(作中にもしばしば象徴的に出てくるし)。


上記「訳者あとがき」を読むと、すでに映画化(監督がドーリス・デリエ!大丈夫かなあ、
好きだけど結構トンデモなこともやる人なので)や2作目の日本語版出版も決まっているようで、
初長編となる3作目も大いに興味を惹かれるところです。「朗読者」のシュリンクもそうだけど
あくまでも真摯に現実と向き合っていくところがドイツ人作家の長所だと思います。
あとからかなりジワジワーとくる作品集でした。