「無垢の博物館」(オルハン・パムク)


図書館にて借出し:


無垢の博物館 上

無垢の博物館 上


無垢の博物館 下

無垢の博物館 下


パムクは個人的にはかなり贔屓にしている作家さんなのですが、もともと恋愛ものが苦手なのに加えて
主人公のダメダメ振りが半端じゃなくて、上巻を読了した時点で「うわーまだこのダメっぷりが続くのか!
もう下巻読まなくて良いですか?(涙目)」くらいに思ってしまったくらい。でも下巻に入ったらトルコの
国産映画制作の話なんかが入ってきて、気持ちがやや持ち直してきました。主人公は全然持ち直してないけど。


1970-80年代にかけてのトルコの社会情勢変化、という背景は非常に興味深いです。どんどん進む
西欧化の影響を受け自由を謳歌しながらも、肝心の部分では昔ながらの因習にこだわってしまう若者達。
その最も端的なものが恋愛や結婚に対する観念で、主人公の友人達もさまざまな愛の形を模索しています。
未だにドイツでも「名誉の殺人」なる名目でトルコ系の男性が自由な恋愛を求める女性を殺すことが話題に
なったりするだけに、当時の若者達の葛藤はもっと凄まじかったのだろうと想像できます。


本来は非常に私的なコレクションを、「博物館」という体裁で公開するという形式にも非常に西洋的な
自我のあり方が見てとれるような気がします。この辺を巡る終盤の薀蓄はパムクらしい気がしました。


私には正直つらい読書でしたが、主人公と彼が想いを寄せる娘(私の脳内配役ではエリカ様)の2人を
注視しなければそれなりに楽しめたというか…といっても2人はほとんど出ずっぱりなんだけど…。