「『社会を変える』お金の使い方」(駒崎弘樹)


図書館にて借出し:


「社会を変える」お金の使い方――投票としての寄付 投資としての寄付

「社会を変える」お金の使い方――投票としての寄付 投資としての寄付


著者は日本で活動している代表的な社会起業家の一人。育児と仕事を両立させられる社会を目指して
NPOで病児保育サービスを提供しています。本書は著者が自分の体験を軸にして「寄付」というものの
現代的価値を改めて問いかける内容となっています。


昨今の「タイガーマスクのランドセル」騒ぎにもあるように、決して日本人はケチでも冷たいわけでもない、
困っている人に手を差し伸べようとする心も行動力も充分持っているのに、それが更に発展した形で浸透して
いかないのは何故なのか?という素朴な疑問に、著者は懸命に答を出そうと色々な人に話を聞いていきます。


米国でファンドレイジング(寄付マーケティング)を学んだ専門家の鵜尾氏の言葉:

「駒崎さんが思っている以上に、寄付はクリエイティブで、かつパワフルなんです。アメリカでは政府と
NPOは競合関係にあります。たとえば自分の手元にお金があります。いくらか税金で持っていかれます。
しかしここで考えるわけですね。『この金を税金で持っていかれるのと、俺の知っているNPOに寄付するのだったら、
どっちが社会のためになるのかな?』と。ここで、政府かNPOか、という『投票』が行なわれるわけです。
NPO同士でも、実績を出して多くの人に知ってもらえれば、それだけ寄付が集まりやすくなります。
だからがんばろうというインセンティブも働きます。いわば寄付の『市場』ができているわけです。
これが行政の補助金だと、政府や自治体と仲良くしようとか、官僚の覚えめでたくなろうとか、そういう方向性に
なっていってしまうわけですが」(P.47)


更にこんな言葉も:

鵜尾さんはまっすぐ目を見据えていう。
「我々は寄付の"文化”を持たないのではなく、特に明治維新以降、国家による公共への依存の期間が長かったせいで、
寄付の”体験”を十分に育んでこなかっただけです。寄付を体験し、そしてそのお金で世の中が少しでも良くなったと
いう実感を得られる、そんな成功体験を積めば、きっと寄付はもっと一般的になっていきます。」(略)
「そうすると、寄付は未来を選択する『投票』であり、選択を実現する『投資』なんですね」(P.53-54)


社会福祉と資本主義は決して対立しない、きちんと運営すれば利益を生み出しつつ困った人を救うことができる、
という信念とその実践がソーシャル・ビジネスの基本としてあるわけですが、寄付という行為もその延長で考える
ことで、新たな意味づけが可能になっていくのだと感じられました。


個人的に私が一番心に沁みたのは、著者が知人の社長から受け取ったこんな言葉
(上記の引用とは若干矛盾しているように見えるかもしれませんが):

「ビジネスの基本には「見返りを求めずに、まず与える」ということがあるんだ。(略)
本当に相手の役に立とうと考えることが、大前提にあるんだ。(略)
でもな、それはなかなか普通の人には難しいわけだ。(略)
寄付はすごく良い練習になる。何度も何度もやっていると、そのうち照れもなく、後悔もなく与えられるように
なっていくんだな。与えることが、どんどん普通になってきて、日常生活でも、そしてビジネスの場でも、
『自分はどうやってこの人に与えられるかな』っていう発想に変わっていけるんだ。(略)
別に見返りを求めてないから、与えて何も返ってこなくても、動じねえ。何か返ってこないとモチベーションが
続かないようなやつは、まったくもって脆いよ。(略)
特に頭の良い奴は、自分の行動の一つ一つに投資対効果を求める。現実はそういう頭でっかち君のしょぼい計算
なんかより何十倍も複雑だ」(P.58-61)


いつも損得を考えすぎる私には耳の痛い発言でした…。


前半が著者の熱意が存分に感じられる体験談である分、後半はやや流してる印象も受けましたが(映画&
ブックガイドはちょっとテキトーな気がする)、読んだ後に自分でも何か行動したくなるような本です。
これからの社会のあり方を考えるにあたっても参考になると思いました。


社会貢献でメシを食う

社会貢献でメシを食う

↑これも初心者向けの良い本。