「ヨーロッパの形−螺旋の文化史」(篠田知和基)


図書館にて借出し:


ヨーロッパの形―螺旋の文化史

ヨーロッパの形―螺旋の文化史


くるくる渦巻きのケルト好きには興味をそそられる副題に惹かれて読んでみました。


螺旋、渦巻、迷宮、迷路…もちろん決してヨーロッパに固有のものではないですが、本書を読んで
改めてこれらをモチーフとした形状がヨーロッパに溢れていることに気づかされます。
ネジや車輪のように西欧文明進化の代表ともいえる部品が、回せば進む・開く・展開する…という動的な
変化を絶えず促し、混沌と秩序の橋渡しを担っていることも分かってきます。さらに遡れば表紙絵にも
引用されている、人間に知恵の実を渡す蛇が樹に巻きつく姿にその一つの典型を見ることができるのです。


豊富な引用で奔放に語られる内容は高度でありながら決して堅苦しくなく、存分に楽しませてくれます。
パリの公衆トイレにも、恋人達の身をくねらせての抱擁にも螺旋や回転を読み取る著者のまなざしに
どんだけー?と微苦笑しつつ、気がつけば私も周囲のぐるぐるを探し始めています。


あとがきで著者は書いています:

しかし、やがて時代は二千年紀を超えて三千年紀へ入った。プロペラの時代は終わり、ロケット推進の時代になった。
ジェット機でも宇宙ロケットでももはやプロペラは使われなかった。竜頭を回してぜんまいを回して駆動していた
腕時計も時代遅れになった。電話もプッシュ式になった。回転ドアも左右に開く自動ドアになった。ガラス玉のなかに
螺旋のフィラメントを入れていた白熱電球も消え去ろうとしている。ヨーロッパというものが新しい形を模索し始めた。(P.235)

こんな風に書き連ねてあるのを読むと、確かに時代の「形」が今、変わりつつあるんだなという
実感が迫ってきます。刺激的な一冊でした。


ケルト 装飾的思考 (ちくま学芸文庫)

ケルト 装飾的思考 (ちくま学芸文庫)

装飾の神話学

装飾の神話学

前者は私がケルトの渦巻に飲み込まれるきっかけとなった一冊、後者はそこからもう少し普遍的に
装飾全般を考察したもの。


ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語 (ハヤカワ文庫NF)

ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語 (ハヤカワ文庫NF)

これもそのうち読んでみようかと。