「過程」(ハリー・ムリシュ)


図書館にて借出し:


過程

過程


なんだか怪しげな神秘主義的な内容で始まるので「ひょっとしてこれヤバイ話?」と心配してしまいましたが、
これはムリシュ独特(これで読みたくない奴は別に読まんでもいい!)の人払いのようで、読み終わってしまえば
非常に充実した、楽しい読書でした。好きだなーこういうの。


神による人間の創造、伝説に基づくゴーレム(人造人間)の創造、一応の主人公ヴィクトルの無機物から
生命体への創造など、様々な創造の「過程」が幾層にも重なり合った形で語られます。その中では物語を
語ることも創造の「過程」の一例としてしばしば言及されます。


創造は必ずしも成功に終わるわけではなく、時に無残な失敗として挑戦者達に深い傷を残します。
イヴの誕生の前にはリリスという失敗があり、作り上げたゴーレムは殺人を犯して消滅させられ、
ヴィクトルの娘は生まれる前に既に死んでいました。


「過程(procedure)」はまた「判決/審判(process)」とも呼応し、何事かを形作ろうとする者たちは
他者によって裁かれ、図らずしも不条理な罰を背負うことになります。


…こんな感じで全てが複雑に絡み合いつつ、それでも物語としての醍醐味を失わない構成力の素晴らしさに
惚れ惚れしました。カフカの「審判」へのオマージュ部分は、あまりに周到すぎて訳者のあとがきを読むまで
さっぱり分かりませんでした(恥)。いやーちょっと違和感を覚えたところはあったんだけどね(負惜しみ)。
まあ、そんな時はもう一度読み返してじっくり楽しめば良いのです。


うーんやっぱりムリシュ面白い。惜しくもつい先日亡くなられてしまいましたが、それならそれでどこぞの出版社様、
全集の企画でも立ち上げてください!


天国の発見(上) 天国の発見(下)

●感想:http://d.hatena.ne.jp/shippopo/20070704
●映画感想:http://d.hatena.ne.jp/shippopo/20071120

全集は無理でも、もちょっと翻訳されても良いはず。