「海のカテドラル」(イルデフォンソ・ファルコネス)


古本にて購入:


海のカテドラル 上 (RHブックス・プラス)

海のカテドラル 上 (RHブックス・プラス)


海のカテドラル 下 (RHブックス・プラス)

海のカテドラル 下 (RHブックス・プラス)


本国スペインでは2006年の出版から激売れで、サフォン「風の影」以来の特大ヒット作となっていました。
日本語訳がこれほど待ち遠しかった作品もそうはありません。素直にうれしー。


時は14世紀。横暴な領主から逃れて自由都市バルセロナにやってきたバルナットとアルナウの父子。
悲しい運命で母と引き裂かれたアルナウが代わりに慕うのは、市民によって建築が進む海の聖母教会(Santa Maria del Mar)に
祭られ崇められる聖母マリア像だった。バスターシュ(港の荷物運搬人)として独り立ちしようとするアルナウだったが、
時代の波が彼を思わぬ方向へ押し流していく…。


前半このままバスターシュとして成長していくのかと思っていたら、後半に入ってから歴史(ペスト、異端審問、etc)の渦に巻き込まれ
あれよあれよとアップダウンの激しいドラマチックな展開。著者はかなり綿密に時代考証を行っているようなので、スペインの歴史に
興味のある人なら特に楽しめるのではないでしょうか。


ベストセラーとしては大先輩のフォレット「大聖堂」を読んでいるので、つい比較してしまいたくなるのが心情ですが、大きく違うのは
こちらの主人公アルナウのまっすぐな正義感と純粋な信仰心。考えてみれば「大聖堂」だって教会の話なのに、こんな敬虔な人物はほとんど
出てこなかったような(笑)。その分感情移入しやすいキャラになっていると思います。
あとやはり実在の都市が舞台であるのは大きな強み。地名などが具体的だし、なにより自由都市バルセロナの市民として誇りが伝わってきます。
著者ももちろん根っからのバルセロナっ子です。


あくまで中世の女性観に基づいた描写となっているので、魅力的な女性が乏しいのがちょっと残念。というかアルナウ、女運悪すぎです。
とはいえ、個人的にはフォレットよりサフォンよりオススメです。日本語版には教会見取図や用語説明、地図などがあるのもポイントが
高いです。頑張って日本でも注目されてほしいです。(そして2作目も翻訳されてほしい…)


↑作品と絡めて教会を紹介した簡単なビデオクリップ。扉に刻まれたバスターシュのレリーフも見られます。