「スローモーション考」(阿部公彦)


図書館にて借出し:


スローモーション考

スローモーション考


英詩を中心とした文学、加えて映像やマンガ、舞踏・ヨガをも視野に入れて「ゆっくり」の意味を問う、とてもユニークな評論集。


語りつくせない<一瞬>を、それでも可能な限り語ろうと言葉を尽くそうとすれば、その一瞬は微分化され引き延ばされて、
現実の時間から立ち遅れた過去の残像として「ゆっくり」と立ち上がってくる…その極めて意識的な操作から生まれてくる
対象への一体感、没入感が、最終的には「幸福感」に繋がってくるのではないかと著者は(多少の批判も込めて)分析しています。


「速くしろ」というのは誰でも出来るわけではないが「ゆっくりやれ」というのは意識すれば誰でも出来る、その自己統制力の
行使が全能感を刺激するのではないか?という問いかけが、私にはとても刺激的でした。「ゆっくり」の深さを色々考えたくなる本。
こういう独特な考え方が出来る人こそ文学者たるべし、と思いました。先日読んだ「フランク・オコナー短篇集 (岩波文庫)」の訳もこの方だし、
今後も要チェック!であります。