「Christine Falls」(Benjamin Black(=ジョン・バンヴィル))
昨年のダブリン旅行で購入:
Christine Falls (Quirke Mysteries)
- 作者: Benjamin Black
- 出版社/メーカー: Picador USA
- 発売日: 2007/10/19
- メディア: ペーパーバック
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著者のBenjamin Blackとは、ブッカー賞も受賞したジョン・バンヴィルが犯罪小説を書く際のペンネームで、これがその1作目。
別に覆面作家ぶるつもりは無いようで、本人も出版社も書店も「あのバンヴィル先生がミステリーを!」みたいな売込み方。
じゃあペンネーム使う意味無いじゃん!と読む前は思ったんですが、読んでみたらちょっと分かりました。なんて読みやすい…(笑)。
バンヴィル先生といえば、ミチコ・カクタニ氏が以前『海に帰る日』の書評で「意匠を凝らした宝石細工の工芸品のようで、
細部まで描きこまれた絵画のような描写や難解な単語、隠喩に満ちている」と嫌味混じりに言及したくらい凝りに凝った文体が
印象的なのですが、今回は中身も文体もバリバリのハードボイルド調。なんだこんなのも書けるんだ!とオドロキです。
著者本人も「あくまで別の作家、別の文体」と言ってます。こういう風に別人になりきるのって楽しいんだろうなあ。
タイトルは冒頭で解剖用に回されてきた死体の女性の名前なのですが、そこから引き出される「キリスト教世界の凋落」めいた連想も
決して的外れではない話です。カトリックの縛りがいまだに根深いとされているアイルランドですが、舞台となる1950年代のダブリンは
現代よりもっとその抑圧感・閉塞感は強かったと推測できます。その中でだからこそ起こった事件なのですが、読み終わると
ミステリというよりは、事件に関わった人達の苦悩が心に残る一種の家族年代記、という印象を強く受けました。既に続編も出ている
そうなので、これは絶対読むつもり。
"John Banville on Benjamin Black" (from Macmillan USA)
出版社によるプロモ映像。著者本人がしっかり解説。映し出されるダブリンの町並みが懐かしい(涙)。
The Silver Swan (Quirke Mysteries)
- 作者: Benjamin Black
- 出版社/メーカー: Picador
- 発売日: 2008/10/27
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- 発売日: 2004/04/23
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これ↑がつい最近まで現実だったのなら、この小説もさもありなん…と思ってしまいました。そんな話です。