「封印の島」(ヴィクトリア・ヒスロップ)


図書館にて借出し:


封印の島〈上〉

封印の島〈上〉

封印の島〈下〉

封印の島〈下〉


自分の過去を語ろうとしない母に業を煮やし、母の生まれ故郷であるクレタ島を訪れたアレックスが知らされたのは
自分の曾祖母がハンセン病で、クレタに近いスピナロンガ島に隔離されていたという事実だった…。


新人のデビュー作をみすず書房が上下巻で発行…って随分な大抜擢だなと最初は思いましたが、考えてみれば
神谷美恵子氏の著作を多数出している出版社なので、ハンセン病を題材としたこの作品も引き受けたのだろうと
推測してみました。


スピナロンガ島は実際にハンセン病の隔離コロニーとなっていた場所で、戦後治療法が確立してからは閉鎖され、
今では観光地となっているとのこと。YouTubeで「spinalonga」と検索してみると、いかにも地中海的な
美しい風景が広がり、つらい過去があったことなど忘れてしまいそうです↓:



物語としては「美しく傲慢な姉」と「従順で薄幸の妹」という組合せがあまりに類型的であったり、ハンセン病
描写や治療法などにもっと具体性(医学的記述など)が欲しかったりと、ちょっとコクが足りない気がしましたが
コロニーに幸せを求めて努力する人々がささやかなユートピアを築きあげていく様子は喜ばしいものがあります。


ハンセン病は今でもある意味タブー視されていて、この題材というだけで多くの出版社から拒絶されたとのこと。
しかし出してみると英国やギリシャを含めて大層評判を呼び、今まで身内でも話題に出来なかったハンセン病について
語り合う機会をもたらしたそうです。そういうことなら小説としてのユルさも読みやすさとして受け入れるべき
なのでしょう。(いや決して出来が悪いわけじゃないんですが、「みすず書房っぽくない」という感じが…)