「聖母のいない国」(小谷野敦)


図書館にて借出し。先日文庫版も出たが、私が読んだのは親本の方:


聖母のいない国

聖母のいない国

●文庫版:asin:4309409067


副題に「The North American Novel」とあるように、取り上げられる作品は米文学が中心。
ずっと国文学が専門の方だと思っていたので、元々は英文科専攻だと知ったときはちょっと意外だった。


タイトルで暗に示している(わかりにくいけど)ように、フェミニズム批判をまぶした文芸評論。
ただガチガチの批判としてではなく、既存の「名作」を裏読み・斜め読みする際にこういう視点も持っておくと
良いかもよ、くらいの心持で読んだ方が気楽だし面白いと思う。まあ私がその種の論議に疎いからかも
知れないが…。


例えば「風と共に去りぬ」は何故<大衆文学>なのか、「赤毛のアン」は何故日本で人気があるのか、といった
疑問を独特の捩れた視点から読み解いていく遣り口が面白い。その捩れっぷりのルーツは「トム・ソーヤー」の
章で告白しているように、幼少時の著者があくまで「善良な優等生」で、大人の望むような「やんちゃな悪童」に
なれなかったことへの劣等感にあるように思える。


個人的に面白かったのは「日はまた昇る」の語り手が不能であることが、新しい人間(男女)関係の
構築を予感させるという指摘。今読み返したら新しい発見があるような気がした。