「流線形シンドローム」(原克)


図書館にて借出し。面白かった!:


流線形シンドローム 速度と身体の大衆文化誌

流線形シンドローム 速度と身体の大衆文化誌

毎日新聞書評(書評者:張競)
↑各紙で取り上げられていましたがこの書評が一番分かりやすかったので。


高校の国語の時間だったか、記号論めいた話になった時に先生が一例として挙げたのが
「流線形電動鉛筆削り機」だった。本来速度とは全く関係ない鉛筆削り機までもが流線形ボディの
デザインで販売されるにあたって、そこにどのような意味づけを読み取ればいいか、といった問いだった。


そんな記憶が今も鮮明に残っていたこともあって、この題名を知った時点で即読むことを決定。
しかし予想以上に深みと凄みを感じさせた内容でありました。


空気抵抗を抑えるために研究され、その形状が自動車などに応用されるようになった「流線形」。
たちまち近代化・合理化のシンボルとなり、米国では空気抵抗とは直接関係ない下着の形状にまで
その言葉は使用される。1930年代は、正に「流線形」が時代を表す流行語だったのだ。


しかしシンドロームとはちと大仰な…と読み進めていったが、中盤から米国女性が流線形ボディを獲得する
欲望のうちに潜む優生学的優越感に言及されるようになってから一気にスリリングな展開になってくる。
優生学」と聞けば、そこからナチス・ドイツとの比較はあとほんの僅かだ。


優生学社会進化論の観点から流線形ボディを人間の進化の最終形(=アメリカ人)と結論づけるアメリカ人に
対し、むしろ自然との一体化の理想的元型(=ドイツ人)と捉えるドイツの差異は、当時の政治情勢を如実に
表していて非常に興味深い。図版も豊富で大変説得力に満ちている。


最終章で語られる日本は、そのモダンなスタイルにだけ注目した「殺人流線型」(要は連続殺人)とか
「流線型あべっく」(要領の良いデートコースの紹介記事)とか、妙になごめるフレーズがビシバシ。
最後がこんなに軽くて良いのか…とも思ってしまうけど、その辺が日本人らしいってことだろうか。
バルトとか持ち出されると、つい納得してしまう。


ともあれ、著者の取り上げるテーマと論法の組み立て方は大変私好みだったので、これから
旧著も追いかけてみたいと思う。