「Suite Francaise」(Irene Nemirovsky)


面白いのに、ついつい他の本に浮気して随分時間が掛かってしまった。やっぱり日本に居るとラクして
日本語の本ばかり読んでしまうなあ(反省):


Suite Francaise

Suite Francaise


私が読んだのは英訳で、原書はフランス語。
著者イレーヌ・ネミロフスキーは1903年キエフ生まれ。ロシア革命時に家族とともにフランスへ移住、
若いうちから人気作家として活躍するが、ユダヤ人ということで第二次世界大戦時にナチスに捕われ、
1942年にアウシュヴィッツで死去する。
生き延びた娘達が守ってきた遺品のスーツケースに保存されていた原稿が2004年に初めて発表され、
その素晴らしい内容にフランスのみならず世界中が驚愕する…。


というのが外枠の「仕掛け小説」なのかと思っていたら、上記の生涯は正に真実と知って愕然としました。
ポストモダーンな小説ばかり読んでると、つい疑り深くなっちゃって…ゴメンなさい。


構想されていた全5部のうち最初の2部だけの未完の小説ですが、それでも充分に読み応えのある内容です。
第1部はドイツ軍の占領を恐れてパリから地方へ逃げようとする人々、第2部は占領下でのドイツ軍人達と
フランス一般民の葛藤と対立、そして淡い心の交流が、複数の異なる階級の家族を通して描かれていきます。
戦争という極限状況で露にされる人間の美徳と愚行が並列して物語られます。


決して政治的な大局は示されず、あくまで一般市民の視点で、しかも書き手の感情を一切交えない具体的かつ
冷静な描写で統一されています。下手すればベタベタなメロドラマになるような話も甘くならないのは
著者の神経がすみずみまで行き届いているからでしょう。一章一章が短編小説のような緊張感があります。


英訳も「あれ私ひょっとして英語力上がっちゃった?」と誤解してもおかしくないような読みやすい文章です。
元々全く観念的・抽象的ではなく、あくまで具体的な内容を丁寧に綴ることを念頭に書かれているので
頭の中でイメージしやすく、かつ納得がいくからだと思います。このまま日本語訳が出ないなら英語ででも
挑戦する価値あり、の一作だと自信を持っておススメします。



五感で味わうフランス文学

五感で味わうフランス文学


↑の中の最終コラム「究極の一冊」で詳しく紹介されています(『嵐の中で−ネミロフスキー「フランス組曲」』)。
野崎さん、チカラ入ってます!


【参考】
「反ユダヤ主義のユダヤ人とは? イレーヌ・ネミロフスキーの場合」(原田幸二)

ユダヤ人の複雑な感情が読み取れます…。