「白い心臓」(ハビエル・マリアス)


図書館より借出し。1997年IMPACダブリン国際文学賞受賞作。昨年作家・批評家により選出された
過去25年スペイン語で書かれた文学ベスト100」では第6位に選ばれている:


白い心臓

白い心臓


表紙の挿画がこんなの↑だし、加えて出版社の紹介文が
「新婚旅行のハバナのホテルから始まる、愛と秘密と殺人の物語。女がささやく言葉の謎!」
だもので、私の苦手なドロドロ不毛な愛の不条理…みたいな話だったらヤダなー、と思って読んだら
良い意味で裏切られました。とても面白かった!


題名はシェイクスピアの「マクベス」の台詞からで、詳しくは巻末の解説に書いてあるけれど、王殺しという
罪に怯えるマクベスと、その罪を示唆し補完し隠蔽するマクベス夫人、という2人の共犯関係が、この小説で
描かれている男女関係全般のモチーフとなっていて、その関係の推移にワクワクさせられる。
主人公とその妻は通訳という設定で、語ること、あるいは黙ることで人の感情をコントロールする術を知っている。
主人公の父親の秘密を探るという形式を取りながら、しかし物語は何重もの問いかけを用意して主人公の心内独白を
引き出していき、これがまた言葉というもの、男女というものに対して深く考えこませるような内容だった。


いわゆる「濡れ場」的な描写はほとんど無いのにも関わらず、読み終わった後に男女関係の深さ、不可思議さに
感じ入ってしまう、そんな大人の小説でした。他の作品が訳されてないのは残念無念。


余談ですが巻末解説を読んで、ラテンアメリカ文学に比べて本家?スペイン文学が元気にないのは、やっぱり
フランコ政権とその思想弾圧の弊害が未だ強いのだろうな、と感じた次第であります。これからどういう方向に
進んでいくのか意識して見ていきたいものです。