「アフター・アメリカ」(渡辺靖)


図書館にて借出し。新刊「アメリカン・コミュニティ」が話題の著者だが、私にはちょっとウェットだったので
もうちょっと堅めの前著を読んでみた:


アフター・アメリカ―ボストニアンの軌跡と<文化の政治学>

アフター・アメリカ―ボストニアンの軌跡と<文化の政治学>


ボストンを構成する対照的な2つのコミュニティ、「ボストン・ブラーミン」(WASPの典型である旧家)と
「ボストン・アイリッシュ」(アイルランド移民)の変遷を、それぞれ複数の家族を対象としたインタヴューを
基に検証したフィールドワーク。
アイルランド移民の多い街だというのは知っていたし、最近ヘンリー・ジェイムズ関連&「ダンテ・クラブ」は
ボストン旧家のメンタリティが前面に打ち出されていた事もあって、今回これを読んだのはとても良い
タイミングだったと思う。


●「The Master」(H・ジェイムズが主人公の小説)感想:http://d.hatena.ne.jp/shippopo/20061116
●「ボストンの人々」(ヘンリー・ジェイムズ作)感想:http://d.hatena.ne.jp/shippopo/20061129
●「ダンテ・クラブ」(ボストンが舞台の歴史ミステリ)感想:http://d.hatena.ne.jp/shippopo/20070608


いずれのコミュニティもそれぞれの出自に誇りを持ちつつ、現代社会では「個人」の意思がより大切だと思っている。
しかしながらそれによりコミュニティの結束力が失われていくことに不安も抱く。
アメリカに限らず、どこの先進国でも似たような傾向だと思うが、元々縛りの強かったこの2つの集団に
所属する人たちの発言は、非常に具体的で興味深い。


これを読んだ後だと、なぜ著者が次に「アメリカン・コミュニティ」を著したのか理解できたような気がした。
既存のコミュニティが崩壊していく中で、己の価値観を維持するために自らコミュニティを選択する必要が
生じている。それが時にはやや胡散臭い宗教集団だったり、同等の生活レベルを持つ人たちが囲われた壁の中に
集まってきたりする。これもアメリカ特有の現象ではないと思うが、とにかくアメリカは大きいので、ある程度
経済的自立性を保てる規模の集団になりえてしまうのだ。


アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所

アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所


次に著者が向かうところはどこなのか。例えば今回の大統領選を彼自身の視点で解説してくれると
面白いと思うのだが。いずれにせよ今後に注目。