「ナンバー9ドリーム」(デイヴィッド・ミッチェル)


古本で購入。


ナンバー9ドリーム (新潮クレスト・ブックス)

ナンバー9ドリーム (新潮クレスト・ブックス)


ミッチェル作品は3作目に当たる「Cloud Atlas」が割と面白かったので、2作目の今作も読むのを楽しみにしていた。
しかしこれはちょっと作風が若いなー。ハイテンションの村上春樹チルドレンというか、これだけ読んでたら
舞城王太郎が外国人の振りして書いたと思ったかもしれない(そういうふざけた事しそうだし)。


これはこれで面白いけど、私はやっぱり「Cloud Atlas」の方が落ち着いていて好きかな。
念のため昔書いた感想を再録しておきます(最近ネット上のデータがすぐ消えちゃうので):


Cloud Atlas

Cloud Atlas



今回惜しくも受賞は逃したが、受賞作("The Line of Beauty")とこの作品、それにコルム・トビーン
"The Master"の評価はいずれも高く、受賞作決定は難航を極めたという。なかでもこれがまだ三作目、
しかも前作もブッカー賞候補に残った新鋭のミッチェルは、今後ますます期待がかかることだろう。


物語の第一章は南太平洋の島(オーストラリア?)から故郷アメリカへの出航を待つ男の日記。
現地人の間の争いなど様々なエピソードが盛込まれつつも、ついに出航したと思ったら唐突に話が途切れて、
第二章は全く別の話になる。戸惑いながらもその相互関係を知るのには読み進めずにいかなくなる。


第二章は20世紀初めのベルギー。音楽家の卵のロバートは金貸しに追われてロンドンからベルギーへ逃走、
そこで今が病気のためほとんど引退状態の大作曲家に助手として雇われることになる。作曲家の信頼も勝ち得、
ついでに奥さんとも懇ろになってしばらくしめしめ状態だったが、次第に彼らの自分勝手さが鼻につくようになって…。
第一章の日記は、自費出版のような本で作曲家の書斎におさまっていたのをロバートが見つけたという仕掛けになって
いる。破損のため途中までしか読めないのが気になるロバートは友人のシックススミスに手紙でこの本について
調べるように依頼する。


第三章はそのシックススミスが初老の男性として70(-80?)年代のアメリカに登場。
科学者である彼は原子力発電の開発中にある致命的なミスに気づきレポートをまとめるが上部からの圧力で
もみ消されてしまう。たまたま彼と話をしたジャーナリストのルイーザは真相を突き止めようとするが…。
第二章の手紙の束はシックススミスが大切に保管している。彼の死後これを見つけたルイーザの調べで、
"Cloud Atlas"というのがロバートが書いた六重楽奏曲の題名だと明らかになる。


第四章はほぼ現在の弱小出版社を経営するティムの一人語り。ひょんなことから自社の出版物がベストセラーに
なったティムだが、そこから面倒な事態に巻き込まれ…という感じ。第三章の物語は彼のところに送りつけられた
小説の原稿の一つ、ということになっている。


第五章は未来の超管理社会で労働用クローンとして生まれたソンミによる語り。第四章の話は残された「映画」と
いう過去のメディアによって記録されているという仕掛け。


折り返し点となる第六章では、文明が崩壊し原始的な生活に戻ってしまった人々の暮らしが描かれる。
第五章の語り手だったソンミは、この世界では一種の神として崇められている。


このようにそれぞれの章が、過去→未来という流れはあるが全く異なる世界を描いており、前の章の物語が
入れ子式(作品内のたとえで言えば「マトリョーシカ」式)に次の章で言及されている。
六章を過ぎると今度は逆に未来→過去の方向で開かれた物語が閉じられていく。
前半がどこへ連れて行かれるか分からない面白さだとすれば、後半は話が収まるべきところへ収まっていく
気持ち良さがある。


正直に言って、それぞれの話そのものにはさほどオリジナリティを感じなかったが、その組み合わせ方や
バリエーションのつけ方が上手い、という印象を受けた。個人的に好みなのはシニカル&ややドタバタ劇調の
第二章と第四章で、逆に社会派スリラー風の第三章やディストピアSF調の第五・六章はやや苦手。
この辺の好みは人によって変わるだろう。いずれにしても今後もっともっとスケールの大きな作品を書いていく
作家だと思う。今後も要注目。
(http://www.geocities.jp/shippopolibrary/2004booker.html)