文学全集あれこれ


ついに河出書房新社より池澤夏樹氏個人編集で出版される世界文学全集の内容が公表されて、
今から落ち着かない日々を送っております。
「文学全集」という響きから想像される全方位型x教養主義的作品集とはかなり離れた、
むしろ「池澤夏樹コレクション」と名づけたいようなラインナップ。
いっそボルヘス編纂の「バベルの図書館シリーズ」のように固有のシリーズ名をつけちゃえば
良かったのに、という気もするんですがどうでしょう。


さてお国は変わって、ここドイツでは南ドイツ新聞社(Süddeutsche Zeitung)が
2004-05年にかけて発行した二十世紀文学全集 (正式名称は「Bibliothek」シリーズ)
全50巻が好評だったようで、この度追加50巻の出版が始まりました。


果たしてドイツ人はどの作家のどの作品を現代文学のスタンダードと考えているのか?
興味があったので日本語訳の有無など色々調べてみました。以下がその結果:
(日本語訳未確認のものは「独題原題」もしくは「(独語訳題)」にて表記)

1. クンデラ「存在の耐えられない軽さ」
2. エーコ薔薇の名前
3. グラス「猫と鼠」
4. フィッツジェラルドグレート・ギャツビー
5. ベルンハルト「破滅者」
6. オースター「シティ・オブ・グラス」
7. カネッティ「マラケシュの声」
8. フォースター「ハワーズ・エンド
9. ヴァルザー(Martin Walser)「Ehen in Philippsburg」
10. アーヴィング「ホテル・ニューハンプシャー
11. オネッティ「はかない人生」
12. シュニッツラー「夢奇譚」
13. ハントケゴールキーパーの不安」
14. ジョイス「若い芸術家の肖像」
15. ユルスナール「とどめの一撃」
16. ハイスミスリプリー
17. センプルン「なんと美しい日曜日!」
18. Uwe Johnson 「Mutmaßungen über Jakob」  
19. ムリシュ(Harry Mulisch)「(Das Attentat)」*オランダ
20. コンラッド「闇の奥」
21. コルタサル「追い求める男」
22. シモン「アカシア」
23. オンダーチェ「イギリス人の患者」
24. シメノン「汽車を見送る男」
25. フォークナー「サンクチュアリ
26. リルケ「マルテの手記」
27. ケッペン(Wolfgang Koeppen) 「Das Treibhaus」 
28. レンツ「国語の時間」
29. グリーン (Greham Greene)「第三の男」
30. Eduard von Keyserling 「Wellen」 
31. マキューアン「セメント・ガーデン」
32. フリッシュ「わが名はガンデンバイン」
33. ノーテボーム(Cees Nooteboom)「(Allerseelen)」*オランダ
34. モーム「魔術師」
35. マッカラーズ「心は孤独な狩人」
36. カフカアメリカ」
37. チャトウィン「ソングライン」
38. シュトラウス(Botho Strauss)「Paare, Passanten」
39. プルーストスワンの恋
40. スタインベック「おけら部落」
41. Andrzej Szczypiorski 「Die schöne Frau Seidenman」*ポーランド 
42. デュレンマット「Der Richter und sein Henker」
43. グリーン(Julien Green)「レヴィアタン
44. ワイルド「ドリアン・グレイの肖像」
45. ベッカー(Jurek Becker) 「Bronsteins Kinder」 
46. ヘッセ「車輪の下
47. ホゥ「スミラの雪の感覚」
48. レーヴィ(Primo Levi)「周期律」
49. デュラス「愛人(ラマン)
50. カルヴィーノ「冬の夜ひとりの旅人が」


51. カポーティティファニーで朝食を
52. パムク「わたしの名は紅」
53. デモーア「ヴィルトゥオーゾ」 
54. ウルフ「ダロウェイ夫人」
55. Ingo Schluze 「33 Augenblicke des Glücks」
56. ベグリイ「五十年間の嘘」
57. ツヴァイクメリー・スチュアート
58. Urs Widmer 「Der Geliebte der Mutter」 
59. ヴォルフ「カッサンドラ」
60. ゴーディマ「この道を行く人なしに」
61. レーヴィ(Carlo Levi) 「キリストはエボリに止りぬ」 
62. Brigitte Kronauer 「Berittener Bogenschütze」 
63. スタシュク(Andrzej Stasiuk) 「(Die Welt hinter Dukla)」*ポーランド 
64. トゥホルスキー (Kurt Tucholsky)「Schloss Gripholm, Eine Sommergeschichite」 
65. コレット「踊り子ミツ」
66. Nuruddin Farah 「(Maps)」*ソマリア 
67. エイケン (Joan Aiken)「(Du bist ich. Die Geschichte einer Täuschung)」*英国
68. グスタフソン (Lars Gustafsson)「Der Tod eines Bienenzüchters」 
69. アンドリッチ「ドリナの橋」
70. Hartmut Lange 「Das Konzert」
71. オズ (Amos Oz) 「(Ein andere Ort)」*イスラエル 
72. アイヒンガー「より大きな希望」
73. ヘラー「キャッチ22」
74. ゼーガースAnna Seghers「(Transit)」 
75. Per Olov Enquist 「(Das Buch von Blanche und Maria)」*スウェーデン 
76. フラバル (Bohumil Hrabal) 「(Ich dachte an die goldenen Zeiten)」*チェコ 
77. バージェス「時計仕掛けのオレンジ」
78. クロス「狂人と呼ばれた男」 
79. シュトレールヴィッツ「誘惑。」 
80. ゴイティソーロ「戦いの後の光景」 
81. シンガー「敵、ある愛の物語」 
82. フーフ (Richarda Huch) 「Der Fall Deruga」 
83. マリアス (Javier Marias)「(Alle Seelen)」*スペイン 
84. ランスマイアー「氷と闇の恐怖」
85. ヒルデスハイマー (Wolfgang Hildesheimer) 「Marbot」  
86. モディアノ「ある青春」 
87. スパーク「死を忘れるな」
88. フォイヒトヴァンガー (Lion Feuchtwanger)「Narrenweisheit oder Tod und Verklärung des Jean-Jacques Rousseau」 
89. ロス「いつわり」
90. マローン (Monika Maron) 「Stille Seile Sechs」 
91. マックスウェル(William Maxwell)「(Zeit der Naehe)」*米国 
92. ヴェルフェル (Franz Werful) 「Eine blassblaue Frausenschrift」 
93. ゼーバルトアウステルリッツ
94. ヒルビヒ「私」 
95. フィッツジェラルド(Penelope Fitzgerald)「テムズ河の人々」 
96. ヴァルザー(Robert Walser)「Jakob von Gunten」
97. バッハマン「マリーナ」 
98. Arno Schmitz 「Das steinerne Herz」 
99. ペルッツ (Leo Perutz) 「Der schwedische Reiter」  
100. バルガス=リョサ「継母礼賛」

●参考:Süddeutsche Zeitung公式オンラインショップDieter Wunderlich Buch- und Filmtipps


さすがに全100巻ともなると、かなり迫力のあるラインナップ。
ドイツ語圏作家が多いのは当然として、ユダヤ人・ホロコースト関連の作品を意識的に多く
取り上げている印象を受けました。あと映画化されて知名度の高い作品を沢山組み込んで
販売部数を増やそうという戦略が感じられますねー。
あくまで欧米中心で、アジア・アフリカ系が非常に乏しいのが残念。


ところでこの日・独2つの文学全集、なーんか装丁が似ている気がするのですが…。