「The Shoe Tester of Frankfurt」(Wilhelm Genazino)
著者はドイツではかなりの人気作家。以前から興味があったのですが
今回英訳本が出たので試しに読んでみました:
The Shoe Tester of Frankfurt (New Directions Paperbook)
- 作者: Philip Boehm
- 出版社/メーカー: New Directions
- 発売日: 2006/06/20
- メディア: ペーパーバック
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原書は↓:
Ein Regenschirm fuer diesen Tag
- 作者: Wilhelm Genazino
- 出版社/メーカー: Hanser, Carl GmbH + Co.
- 発売日: 2001/08/01
- メディア: ハードカバー
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著者は1943年生まれということで硬めの作風を予想していたのだが、実際に読んでみると
非常に現代的というか都会的な内容でちょっと驚いた。
主人公の「私」は46歳男性。教養・知性はあるけれど(あるゆえに)定職につくこともなく
半分恋人のヒモのような生活を送っていた。しかしその恋人と破局したことでこれまでの生活を
変えざるをえない状況に追い込まれる。
英題の「shoe tester」とは主人公が小遣い稼ぎにやっている仕事で、高級靴の試作品を履いて
2−3日街中を歩き回り、後日履き心地について報告書を提出するというもの。
歩きまわる間、主人公は街で見たものや遭遇した出来事についてとりとめもなく思考を巡らせ、
時に幼少時の思い出に浸りこむ。この「歩きながら考える」というスタイルが何だかドイツ的。
主人公は常に虚無感・不安感にとらわれており、「自分の居場所はここではないのでは」
「自分の人生は一種の間違いなのでは」「ただ転落に向かっているだけの人生なのでは」
といった意識から離れることが出来ない。彼に限らず彼に関わる友人、特に女性たち
(何故か彼はすごくモテる!)も同様の疑問を抱えて苦しんでいる。
こういった「都市生活者の漠然とした不安」といったテーマの小説は、むしろ日本の現代作家の
作品に多くありそうな気がするが、これという具体例が今は思い浮かばない。
頭の中の少ない引き出しから無理やり探り出してみると、吉田修一がもっと年取ったら
こういうのを書きそうな感じ?その上の世代だとやっぱりハルキになっちゃうのだろうか。
うーん、もっとドンピシャ!の人がいそうなんだけどなあ。
ともあれ、予想とは違いましたが非常に面白かったので、いつかはドイツ語の原書で他の作品も
読めるよう頑張りたい…はは…毎回言ってる…。