「ラスト・ワールド」(クリストフ・ランスマイアー)


古本にて購入:


ラスト・ワールド

ラスト・ワールド


皇帝の怒りに触れ、ローマから追放された詩人・オウィディウス
数年後、彼の死を伝え聞いたコッタは詩人の遺稿「変身物語(メタモルフォーセース)」を入手しようと
流刑地の町・トミまで赴くのだが、町の人々は詩人について多くを語ろうとしない。なぜ?


読み始めは少し物語に入り込むのに苦労した。だっていきなり「ローマ皇帝」と「映画上映」が同じ世界のものとして語られるのだ。
これって一体いつ?なんでそんなことになるの?時間軸がうまく定められなくてちょっとオロオロする。


しかしこの物語の舞台・トミはローマ人の考えるところの最果ての地。
海からの漂流物が波打ち際に堆積するように、すべての時間がここに吹き溜まり、寄せ集められる。
ここはそういう世界なのだ、神話も伝説も日常の中に折り重なっている多層的な世界なのだ、そう腹を決めると
あとは作者の自在な語り口にひたすら酔いしれるだけ。


物語の大部分は「変身物語」を基盤に置いているので、原典を詳しく知っていたほうが勿論より楽しめるのだろうが
ギリシア神話をちょっと齧った程度の私でも小説そのものは充分面白く感じられたし、
巻末に原典との対応表が載っているので読了後にそれをもとにちまちまと調べごとをするのも楽しい。


オウィディウス 変身物語〈上〉 (岩波文庫)

オウィディウス 変身物語〈上〉 (岩波文庫)

(下巻:asin:4003212029


「ラスト・ワールド」と英語にしてしまうとなんだかSFのようだが、むしろ「この世の果て」もしくは「終末の世界」
のような終末感、崩壊感を思わせる内容。
残念ながら今は新刊では入手不可だが、こういう壮大な叙事詩風の物語を好む人は少数ながら必ず居ると思うので
そういう人にぜひ読んでほしい。



Der fliegende Berg

Der fliegende Berg


日本ではこれともう一冊が90年代に翻訳(いずれも現在新刊入手不可)されたっきりだが、
ドイツ語圏では寡作ながら出せば必ず話題を集めるベテラン作家としての地位を確立している。
この最新作はヒマラヤにあるという幻の山を捜し求めるアイルランド出身の兄弟の物語。
本人も登山家で、執筆の合間は山登りに熱中しているそうな。



●関連:「buecher」誌のドイツ文学特集:http://d.hatena.ne.jp/shippopo/20061019



(素朴な疑問ですが、ドイツ文学の研究者・翻訳者に「高橋」姓が多いと感じるのは私だけ?何か理由があるの?)