「The Night Watch」(サラ・ウォーターズ)


ロシア映画の原作…ではなくて2006年ブッカー賞&オレンジ賞候補作:


The Night Watch

The Night Watch


翻訳された前二作(「半身」「荊の城」)はヴィクトリア朝が舞台のミステリ風小説で、個人的にはディケンズのパロディみたいなところが気に入っていたのだけど、今回の新作の舞台は1940年代、しかもミステリじゃない、ある意味「普通」の小説なのでちょっと戸惑った。


もう一つサラお姉様作品には欠かせない要素であるレズヴィアニズムは勿論今回も多分に含まれているが、これも妖しい雰囲気はそれほど醸してなくて、極めて真っ当な恋愛として描かれている。


ただし内容が 1947年→1944年→1941年と徐々に溯っていく構成で、最初の部分ではそれぞれの人間関係が全く説明されないまま話が進んでいくので「一体この人とあの人はどーいう関係なの?」という疑問がある種の「謎」として読者を最後まで引っ張っていく。


読んでいる間はすごく地味な作品、という印象だったが、戦時中での庶民の暮らしぶりが丁寧に描かれているし、主要人物の4人以外のキャラも個性的な人達が多くて、読後感は意外と悪くなかった。
ただ今までの路線とは随分違うから、これまでのファンがどういう反応を示すかな?と変な部分で興味津々。今後どういう傾向に進むのか、という意味で次回作も楽しみ。


直接物語とは関係ないけれど、舞台となるロンドンの街は昔も今も通りの名前とか地区名とかがほとんど変わらないから、そういう固有名詞が出てくるとパッと地図が頭の中に浮かんで、それがまた新たな想像力をかきたててくる。存在自体が物語を内在する都市なのだなあと改めて実感した次第。
書く方は嘘がつけないから大変だろうけど。


日本語版は同じ出版社&訳者で、来年の前半には出るような感じ。