「魔の山」(トーマス・マン)


魔の山 (上巻) (新潮文庫)

魔の山 (上巻) (新潮文庫)

●下巻:ISBN:4102022031


小難しい神学論争ばかりのおカタイ話だったらやだな…と思っていたのですが、我が読書の指南役の一人・池澤夏樹氏が自著(↓)の中で「そーゆー本じゃありません」と教えてくれたので、それでは、と手をつけてみました。T・マンは短編は読んだことがあるけど長編はこれが始めて。


ダラダラと読んでいたので読了まで1ヶ月以上かかってしまいましたが、いやーなかなか楽しかったです。


俗世からほぼ切り離された山の上のサナトリウム。死の気配が常に漂うその場所には、時間ですら正常の単位では流れない。
そんな場所にたまたま放り込まれてしまった主人公ハンス・カストルプ青年の運命や如何に…?


とにかくこのハンス・カストルプ君のキャラがなんとも可笑しい。決して頭が悪いわけじゃないけれどちょっと天然ちゃんというかボンヤリ君で、会話の場面など本人は鋭くツッコんでいるつもりなんだけど実はボケをかましている、みたいなズレがある。
大人がついつい呼び止めて説教というか啓蒙したくなるタイプで、本人も啓蒙されたい!みたいな向上心はあるから、啓蒙する方もされる方も満足して話を終えるのだけど、実はあんまり身になってない…。


恋愛についても同じようなもので、同じサナトリウムの患者である人妻に想いを寄せるのだけど、本人は忍ぶ恋のつもりでも周囲にはしっかりバレバレ。
後になって恋敵が登場すると、それまで反対していた人にまで「おらおらしっかりせんかい!」とハッパをかけられる始末。情けないよハンス…。


一応は成長小説(Bildungsroman)なんだけど、むしろ若者の長い長いモラトリウムを描いているという印象を強く受けました。その意味ではより現代的と言えるのかも。
いまや他の長編も読む気まんまんであります。やっぱりまずは『ブデンブローク家の人々』かな?



世界文学を読みほどく (新潮選書)

世界文学を読みほどく (新潮選書)

この他に読みほどかれているのは『パルムの僧院』/『アンナ・カレーニナ』/『カラマーゾフの兄弟』/『白鯨』/『ユリシーズ』/『アブサロム、アブサロム!』/『ハックルベリ・フィンの冒険』/『百年の孤独』/『競売ナンバー49の叫び』。
海外文学、長くてとっつきにくい…と思っている人にオススメ。



スパニッシュ・アパートメント [DVD]

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魔の山』を現代を舞台にアレンジしたらこんな風になるかしらん?と思ってみたり。人妻を誘惑するのは、もはや「成長もの」のお約束ですね。