「On Beauty」(ゼイディー・スミス)


2005年ブッカー賞候補作。


On Beauty

On Beauty


彼女の作品を読むのは前作「Autograph Man(邦題:直筆商の哀しみ (新潮クレスト・ブックス))」に続いて2作目。前作は文章がトリッキーというかなかなか手強くて、読むのに結構難儀したのだが、今回は随分と読みやすくなっていてちょっと意外。


かといって内容が単純、というわけではなく、むしろ語り口が更に巧妙になったと言える。いやーすんごく面白かった!


基本的にはリベラル派のベルシー家と保守的なキップス家との確執を、主にベルシー家の側から書いているのだが、このベルシー家の中でも様々な価値観がぶつかりあっている。
父親のハワードは英国出身の白人で大学教授、母親のキキはアフリカ系アメリカ人の看護婦(若いときは凄い美人)、その長男は信心深く、長女は父親以上のリベラリスト&理論派、次男はストリートキッズに憧れている…という具合。一つの家族の中でも「白人と黒人」「リベラルと保守」「インテリと非インテリ」というように、各々が自分の信条に基づき盛んにパワーゲームを繰り広げる。


それに加えて宿敵?のキップス家やらお互いの勤め先の大学やら、ありとあらゆるものが取り込まれてそれぞれが自分の優位性を主張する。
ともすればギスギスした話になりそうなところを、軽妙なタッチでユーモアたっぷりに仕上げた作者の力量につくづく感心。この人、まだ30歳そこそこなのになんでこんなに上手いの?(しかもまだまだ伸びそう…末恐ろしい…)


関連記事を読むとこの話はフォースター「ハワーズ・エンド」への明らかなオマージュとして書かれているらしい。うーん、そう言われるとこっちも読まなければいけない気になってくるなあ。