「逃亡する馬」(マルティン・ヴァルザー)

民営図書室より借出。


逃亡する馬 (新しいドイツの文学シリーズ)

逃亡する馬 (新しいドイツの文学シリーズ)


高校教師として地道に自分の生活を築き上げてきた中年男性のヘルムート。しかし避暑地で二十三年ぶりに出会った旧友は驚くほど積極的で、若い妻と共に彼らの休暇をかき乱す…。


こ難しい話かな?と危惧していたが、素直に面白かった。良くも悪くも自分の生活様式に慣れ親しんでいてそれを変えることに苦痛を覚える反面、少しは変わらなければという焦りを感じるあたり、私もどちらかといえば保守的な生活を好む人間なので結構共感してしまった。
奥さんとの関係も、長年連れ添ってるとやっぱこうなるよねといった、だらしなさと図々しさが混ざった(それでいて微笑ましい)感じがちょっとリアルだ。


作者はドイツではベテランというか重鎮とも言えるキャリアの持主だが、創作初期にはかなりカフカに影響を受けていたそうだ。そう言われれば突然の旧友夫妻の侵略にその手の不条理さを認めることができなくもない。けれどそれを「いるいる、こういう迷惑な『自称』友人って!」と身近に思わせるところに円熟した旨みを感じる。うーんもっと色々読んでみたい。


ネットで検索してみると、1998−2002年にかけてホロコーストに関する発言で色々物議をかもしたこともあったようだ。
きっかけになったドイツ出版平和賞は先日トルコのオルハン・パムク氏も受賞していたもの。平和と戦争に関する解釈は個人個人で大きく異なる、ということだろうか。


●「Walser-Bubis Auseinandersetzung いわゆるホロコースト論議」(中欧通信)
http://www105.sakura.ne.jp/~honjo/essay/streit1.html