「The Sea」(J・バンヴィル)


The Sea

The Sea


2005年のマン・ブッカー賞受賞作品。
SIGHT別冊「日本一怖い! ブック・オブ・ザ・イヤー2006」 (別冊SIGHT)」にN.Y.Timesのミチコ・カクタニ氏がこの本の事をけちょんけちょんにけなした書評が翻訳紹介されていたので、ええーそんなに酷いのー?と危惧しながら読んだけど、いや、そんな悪くないですよ、ていうか、良い!


ミチタニ氏の分析自体は非常に適確で、「本作のプロットは(略)まさに申し訳程度にしか存在」せず、その文体は「意匠を凝らした宝石細工の工芸品のようで、細部まで描きこまれた絵画のような描写や難解な単語、隠喩に満ちている。」(P.168)という指摘には全く同意する。


あとはもう個人的な好みの問題で、ミチタニ氏のように「わざとらしい」と思うか、もしくはその端整な美しさに呆然と溜息をつくかはその人次第なのではないだろうか。私は充分堪能しましたですよ。


基本的には老人小説なので全体的に枯れた雰囲気であるのは仕方ないことで、そのなかで緊張感を一時たりとも失わず、現在と回想を自在に繋ぎあわせていく手法は素晴らしい。
カクタニ氏が言及していた執拗なまでの肉体への言及も、日に日に老いさらばえていく自分の姿を客観的に描写することで、身近に迫る死と正面から向き合おうとする主人公の姿勢がはっきり打ち出されていて、私はむしろ好感を持った。


やっぱり本って実際に読んでみないと本当に分からないものなので、人の書評に引きずられずに(参考にはしても)自分が良い!と思った本を良い!ということが大切だよなあ、と改めて思ったりもしたのだった。



ちなみに同書評の中でカクタニ氏がマン・ブッカー賞受賞にふさわしいと挙げているのは以下の3作品。こちらもおいおい読むつもりなので、どういう感想を自分が持つか楽しみ:


On Beauty

On Beauty


Never Let Me Go

Never Let Me Go


Saturday

Saturday