「ウォーホルの芸術」(宮下規久朗)

図書館にて借出し。著者の宮下氏は「食べる西洋美術史」からのファンです。専門はカラヴァッジオを中心とするバロック美術ですが、
専門バカには持てない幅広い視野と分かりやすく噛み砕いた語り口が魅力です:


ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡 (光文社新書)

ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡 (光文社新書)


ウォーホルは学生時代から好きで機会があれば結構作品を見に行っていたのでそこそこの知識はありましたが、本書では
彼の作品群を時系列的に並べて丁寧に読み解いており、一層理解が深まりました。入門書としても良い内容だと思います。
改めて印象に残った点は2つ:


1)芸術が大量生産・大量消費の対象になっても(もしくは、であるからこそ)作り手個人の内面や個性を重視せず、
あくまで作品そのもののインパクトに身を委ねる潔さ。にもかかわらず他の人の作品を見ても「これってウォーホルぽい」と
思わせてしまうほどに考え抜かれ、洗練された手法の確立。あえて作家自らが解説しなくても周囲が解釈を広げていける
自由度の高さ。


美の20世紀〈16〉ウォーホル (美の20世紀 16)  セレブレイション~マドンナ・オールタイム・ベスト(2枚組)

ウォーホルのモンローと、「ウォーホルのモンロー」ぽいマドンナ。


2)「僕の望みはビジネス・アーティストもしくはアート・ビジネスマン」と言い切るほどの、商業美術出身の強みを生かした
徹底したマーケティングと、多くの助手を従えた現在版徒弟制度「ファクトリー」の設立。純粋美術(fine art)の世界も
クライアントの存在無しに成立しないことを冷静に見据えた上での表現活動。


ビジネスとアートの関係については確かこの人↓もビシバシ言ってたなあ…と思い出して、ついでにこちらも読んでみました:

芸術起業論

芸術起業論

予想以上にウォーホルに言及している箇所が多く、少なくともビジネスモデルとしてウォーホルをかなり参考にしている事が
良く分かりました。作家としてはちょっと揶揄してる感じですが、それはちょっとした妬み心の現われかも?
両方併せ読むとウォーホルが何を成し遂げたのか、そして村上氏が今の日本の現代美術の何を問題としているのか、より深く
分かって刺激的でした。(といっても私はあまり村上氏の作品は好きじゃないんですが…)


またそのうちじっくりとウォーホルの作品を眺めてみたくなりました。財団と折り合いがつかず、掲載予定だったカラー口絵が
無くなってしまったのはとても残念。でもまあその気になれば作品は身近にあるはず、だってそれがウォーホルだもの。



おまけ:当時は何者か全く知りませんでしたが、この「グンヂャウイロ」は良く覚えてるなー。
(しかし今観ると「イマ人」って…しかもビデオテープって…時代を感じるゎ…)