「グラーグ57」(トム・ロブ・スミス)


図書館にて借出し:


グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)


グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)


昨年読んだ「チャイルド44」の続編。
前作ではイデオロギーや組織の硬直(理想的な社会主義国家に殺人犯は存在しない、という建前)が招く犯罪の悲劇を
取り上げていましたが、今回は価値観や体制の逆転が生み出す復讐の連鎖を描いて凄まじい迫力があります。


スターリンの死後にフルシチョフが彼を批判した事もあって、ソ連内でこれまでの体制下に悲惨な仕打ちを受けてきた
人達が一気に復讐の牙をむきます。
主人公・レオも前体制ではかなり残虐な行為を民衆に与えていたわけで、もちろん前作からの読者は彼がそこから
改心して新しい人生を踏み出そうとする経緯を知っているわけですが、復讐する側にしてみれば
「あの時はしょうがなかった、改心したんだ、家族は関係ない」と幾ら懇願されても、それは私達だって同じだった、
でもあの時お前は見逃してくれたか?私達の必死の頼みを聞き入れてくれたか?とかえって憎しみがわきあがる、と
いうことで状況はますます泥沼に陥っていきます。読む側としてもレオに同情ばかりはできない、実際レオは過去に
それだけのことをやっていたわけだから…と複雑な心境にとらわれます。


もちろん逆転した体制も暫定的で、ちょっとした駆け引きで容易に立場が入れ替わる危ういものなので、作中何度も
思わぬ二転三転が繰り広げられ、全く予想のつかない展開に翻弄されていくうちに読み終わってしまいました。
次回作が最終巻になるということですが、どんな結末が待っているのか楽しみでもあり恐ろしくもあり。いずれにせよ
単純なハッピーエンドにはなりそうもありません。


しかしそれにしてもフラエラすごすぎ。私も極限下に置かれたらあんな風に変貌できるかしらん?いや無理…。