「トーヴェ・ヤンソンとガルムの世界」(冨原眞弓)


図書館にて借出し:


トーヴェ・ヤンソンとガルムの世界―ムーミントロールの誕生

トーヴェ・ヤンソンとガルムの世界―ムーミントロールの誕生


ムーミントロール誕生前史、と一言でまとめてしまうには余りに勿体ない、著者の並々ならぬ情熱がこもった一冊です。
1923年にフィンランドで創刊された風刺雑誌「ガルム」。ソ連の成立、ナチスの台頭など小国にとっては予断を許さない
状況の中で、政局や日常を小気味よく批評する雑誌として大いに気を吐いたわけですが、そのスタッフとして重要な役割を
占めていたのが画家だったトーヴェの母親、シグネ・ヤンソン。そして後に娘のトーヴェもその画才を発揮して沢山の
風刺画を掲載していきます。


「ガルム」誌に掲載された母子の作品が本書には多数転載されていますが、ぱっと見るだけでも簡潔にして要を得たその画力に
目を見張ります。著者の行き届いた解説でよりその深みが理解できるようになっていますが、やはりまず単純に一枚の絵として
非常に魅力的だと思いました。絵心の無い身としては素直にうらやましい。


風刺画の中に控えめに作者の分身として書き添えられてきたムーミントロールが、徐々に雑誌を代表するキャラクターとして
人気を集めていくあたりはムーミンファンにはたまらない面白さです。最初のムーミントロールはまだ造形も定まってなくて
ちょっと変な顔。スナフキンのニヒルさやミイの意地悪ぶり、スノークの見栄っ張りさなどは、この「ガルム」誌で鍛えられた
トーヴェならではの鋭い観察眼からくるものだということが良くわかりました。後年書かれた大人向けの小説もそのうち
読んでみようと思います。


フィンランド、更にはスカンジナヴィア諸国の複雑な歴史についても知るところが多く、たいへん勉強になりました。
もっと基礎知識をしっかり身につけてから読み返したらもっと楽しめそうです。が、がんばろう…。