「通話」(ロベルト・ボラーニョ)

図書館にて借出し:


通話 (EXLIBRIS)

通話 (EXLIBRIS)


2003年に50歳で亡くなったチリ出身の作家の短編集。昨年英訳された長編「2666」が大変な話題を呼んでいたので
是非読んでみたかったのでした。


傾向としてボルヘスとかカフカも引合いに出されているようですが、少なくともこの短編集に限ってみれば、一番私に
しっくりくる喩えはタランティーノチェーホフ。これといった取り得のない人物がパッとしないままにずるずると堕ちて、
でも下手をすれば誰も(本人ですら)その事に気づかない、笑っていいのかも分からなくなるような、そんなやるせない
状況が綿密に描かれています。


スペインが舞台の話も多く、予想よりもコスモポリタン的な、少なくともラテンアメリカに留まらずスペイン語圏という範囲で
評価されるべき作家だという印象を受けました。もちろん1973年のチリのクーデターでの体験が大きくのしかかっていることは
感じられますが、それもこの短編集の中では直接的に描写される事はありません。


非常に読み応えのある作品揃いだったので、これから続々長編が翻訳されて新たな魅力が次々と発見できるようになることを
期待して待ちたいと思います。



追記:「どうも僕はアルゼンチン人を相手にするといつも、タンゴやら迷路やらといった話題にさまよい込んでしまうようで、
これはチリ人の多くに見られる傾向なのである。」(p.17)という文章に思わず笑ってしまいました。一気に親近感を覚えた一言。